■ワールドカップらしい緊迫した攻防

 さて、カタール大会は準々決勝まで終わり、「ベスト4」が出そろった。クロアチアがブラジルをPK戦で下し、モロッコがポルトガルを相手に本当に見事な試合を見せ、1-0で退けて勝ち残ったのは、正直なところ驚きだった。私も後藤さんもブラジルとともに優勝候補に挙げていたイングランドは、ここにきてぐっとチームがまとまったフランスに1-2で屈し、大会を去った。

 準々決勝の最後に行われた「イングランド×フランス」は、間違いなく、この大会の白眉だった。大会随一の戦術的熟練度を誇るイングランドは、いつもどおり精妙なポジショニングでボールを握った(支配率はイングランド50%、フランス35%、「五分五分」が15%)。しかしこれまでの試合では個人技にものを言わせるサッカーを展開してきたフランスが、この試合では見事なコンビネーションとチームのまとまりを見せ、キリアン・エンバペという大会随一の武器を有効に使って勝利を切り拓いた。

 フランスの見事さは、PKで同点に追いついて勢いに乗るイングランドの攻撃をしのぎつつオリビエ・ジルーが見事な決勝点を叩き込んだことだったが、イングランドもその直後にこの試合2つ目のPKを獲得、1本目を決めたハリー・ケインがこんどは大きく上にけり上げて失敗したものの、最後まで息をつかせない熱戦を展開した。

 勝者と敗者、準決勝に進む者と帰国しなければならない者と、明暗は大きく分かれたが、この大会で初めて「ワールドカップらしい」緊迫した攻防を見た気がした。勝利のために守るべきときには厚いブロックを敷いて守り、機を見て攻撃に転じるサッカーも見応えがあるが、互いに一歩も引かずに戦ったイングランドとフランスには、大いに敬意を表したいと思う。

(6)へ続く
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