大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第96回「ドイツ半世紀」(4)ドイツと日本で輝いたヨハン・クライフのスパイクの画像
ドルトムントの筆者の席はピッチをこんな近くから見ることができた。オフサイドトラップを破られかけたオランダ。レップとクライフの両FWがカバーに走る。(c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは「ドイツ」。

■輝いて見えたクライフ

 ドルトムントのスタジアムのメインスタンド中央、前から8列目の席からは、左タッチライン際でプレーするヨハン・クライフはわずか10数メートルの距離のところにいた。右足でボールを止めてスウェーデンのDFと対峙し、右足アウトサイドで一歩内側にもち出してキックのモーションにはいるクライフ。

 相手があわててそれに食いつくと、クライフはさっと身を翻し、立てた右足のインサイドで左足の後ろを通してボールを縦に出し、あっという間に加速してDFを置き去りにした。そして中央に猛烈な勢いでヨハン・ニースケンスが走り込んでくるのを見ると、右足のアウトを使って鋭く曲がる低いクロス。スライディングしながらこのボールに合わせたニースケンスのシュートは、わずかにゴールを外れた。

 クライフがキックのフェイントから右足を返して左足の後ろでボールにタッチしたとき、彼のプーマのシューズの真っ白なソールが目に飛び込んできた。それはまるで、何かがキラッと光ったかのように感じられた。あるいはまた、静かな湖面からいきなり銀のうろこの魚が跳ねたかのようにも見えた。そしてその次の瞬間、クライフはあっという間に遠ざかっていたのだ。

 この大会、私は夜ホテルに戻ってからノートにその日の観戦記を書いていた。それまでの試合は2ページほどだったが、この試合は興奮した字でなんと5ページも書いてしまい、ベッドにはいったのは午前2時を回っていた。ワールドカップにくることのできた幸せをかみしめた夜だった。

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