■「ベンチスタート」に感じる思いやり

 さて、今回はチームベンチの話である。監督をはじめとしたチームスタッフと、交代要員が試合中に試合を見ながら控えている場所である。ベンチ入りした役員と選手は、ピッチ上の選手と同様に責任ある態度を取らなければならず、執拗な異議やレフェリーを侮辱する言動をした場合などには、ピッチ上の選手と同様、イエローカードやレッドカードで処分される。それほど重要な場所であるのに、信じ難いことだが、ルール(競技規則)にはまったく規定がないのである。

 「規定」はないが「記述」はある。競技規則第1条(競技のフィールド)の「テクニカルエリア」の条項にある。「チーム役員、交代要員および交代して退いた競技者の座席」という長い表現が「チームベンチ」であり、「(テクニカル)エリア内には、(上記のものが)設置される」とある。

 これは少しおかしな話だ。本来はチームベンチが先にあり、そのベンチから両横に1メートル、タッチラインまで1メートルの範囲を「テクニカルエリア」とすると決められたはずだからである。

 どちらが先かの議論は別にしても、「チーム役員、交代要員および交代して退いた競技者の座席」についての規定がまったくないのは、不思議な気がする。まあ、それでいいのかもしれない。競技場のさまざまな制約により、チームベンチのあり方も千変万化せざるを得ないからだ。

 最近、テレビ放送で「ベンチスタート」という言葉をよく聞く。交代要員のことを指すのだが、もちろん「和製英語」で、私には、非常に奇妙に響く。「スタート」の選手ではないからベンチにいるのではないか。ただ、「ベンチスタート」には、選手への愛情、思いやりのようなものも感じられて、なんとなくほほ笑ましい印象もある。

 この記事で私は「交代要員」と書いてきたが、英語では「substitute」となる。試合前の選手紹介で「substitutionは誰々」というようなアナウンスを聞くことがあるが、それもおかしい「substitution」とは、選手交代という出来事そのものを指す言葉だからだ。

 ちなみに、アルゼンチンで、交代要員を「en banco」と紹介されるのを聞いたことがある。「ベンチにいる」という意味で、これは正確な表現ではないかと思う。

(2)へ続く
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