ワールドカップが近づいてきた。本番に向けた準備も進んでいくが、それは選手にとっての負担の増加を意味する。サッカーの世界は正しい方向に進んでいるのか。サッカージャーナリスト・大住良之が考察する。
■当然の権利を奪われた選手たち
1970年代までは、EUROの決勝大会は4チームによる勝ち抜き戦で、数日間で終了した。ワールドカップ出場国の代表選手たちは、4年にいちど「オフシーズン」を奪われたが、現在はそれどころではない。EUROが拡大して丸1か月間もかかる大会となって、2年にいちどは「オフなし」となった。すなわち、欧州の代表選手たちは2年のサイクルでサッカーに取り組んでいたことになる。そこにネーションズリーグが加わり、「オフシーズン」は「死語」になったのではないかとさえ思ってしまう。
しかもシーズン中の試合数は増える一方だ。欧州のクラブ国際大会は、UEFAチャンピオンズリーグだけでなく、UEFAヨーロッパリーグに加え、2021年からはUEFAカンファレンスリーグも始まり、いまや100以上のクラブが関与している。FIFAもクラブワールドカップの創設で選手たちに新たな負担を強いている。
私は、「1か月間のオフシーズン」は、プロサッカー選手の当然の権利であり、基本的に侵してはならないものと思っている。元来、サッカーの世界にはそうした成熟した暗黙の了解があったはずだ。しかし過去20~30年間の間にサッカーが急速に「ビッグビジネス化」し、収益のさらなる拡大を図って大会や試合が次々と増やされた。経済原理として、売り上げを増大させるには、「商品(サッカーなら試合)」の供給量を増やすのが当然のことだからである。