■正確な判定よりも尊いもの

 だがこのシステムが進化すれば、すべてのオフサイド判定がAIに委ねられ、その判定が副審に伝えられて旗を上げる、あるいは主審に伝えられて笛を吹くなどの「完全自動化」への欲求が高まるのではないか。

 しかしそれでいいのか。トップクラスだけでしか使えないシステムを次々と生み出し、テレビに映る試合だけで「正しい判定」に近づこうという動きは、サッカーという競技にとって幸福なことなのだろうか。

 トップクラスのサッカーでは、ひとつの判定が巨額の損得に結びつくからと、VARを導入する理由をFIFAは説明した。しかし年俸100億円のスーパースターだろうと日曜日の午後にプレーするビール腹のおじさんだろうと、ひとつのゴールやひとつの勝利にかける思いに軽重がないのがサッカーではないか。だとすれば、判定ミスによるゴールの取り消しや敗戦も、「それもサッカー、人生の一部」と割り切り、審判たちの判定を尊重するほうが、「文化」としてはよほど質が高いのではないか。

 「2D(ピッチ上だけのライン引き)ではだめだ。3D(上半身の位置でのライン引き)が必要だ」とか、「ほら、つま先が出ているから、オフサイドですよ」などと言う前に、未来のサッカーを担う少年少女たちに「オフサイドはなぜ反則か」と問いかけ、自分でゆっくりと考えてみさせるほうがずっと重要ではないかと、私は思うのである。

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