■アンデス山脈を挟んでの「攻防」
まだピノチェト大統領が権力を握っていた1987年に、アルゼンチンでコパ・アメリカが開かれたことがあります。この大会、チリ代表はグループリーグでブラジルを4対0と撃破して決勝に進出。決勝ではウルグアイがチリを破って2大会連続13回目の優勝を果たしています。開催国アルゼンチンではディエゴ・マラドーナもプレーしていましたが、準決勝で宿敵ウルグアイに敗れてしまいました。
当時は、日本では南米の大会の様子を映像で見ることはできませんでした。そこで、僕は手を尽くしてこの大会のビデオテープを入手しました。それは、チリの放送局が流した映像のコピーでした。チリとブラジル、ベネズエラが入ったグループの試合は、サンチャゴからはアンデス山脈の反対側(東側)にあるコルドバで行われました。チリ人が観戦に訪れやすいようにでしょう。
ところが、この頃、ピノチェト政権に弾圧された大勢のチリ人がアルゼンチンに亡命していました。そして、彼らはスタジアムで反ピノチェト・スローガンを書いた応援幕を掲出したのです。この試合は、当然チリで生中継されているからです。
ところが、権力側もちゃんと対抗措置を採っています。実は、実況中継は実際よりも数十秒ほど遅れて放送されていたのです。ですから、政権にとって都合の悪いメッセージが画面に移り込んだ場合には映像を遮断してしまえるというわけです。
もっとも、こうした政治的な目的でのディレー放送というのは独裁政権の国ではどこでもやって手法なんですが。