■日本で深まっている審判への理解

 さて、その家本さんがまだ広島県で高校生サッカー選手だった1990年、イタリアでのワールドカップで、私はある日の試合前にFIFAのプレスオフィサーを訪ねて「試合後に主審の取材をしたい」と申し入れた。予想どおり「レフェリーは試合後には取材に応じない」と言われたので、「試合のことを聞きたいのではない。日本人としてワールドカップで2大会連続主審を務めたことについての感想を聞きたいだけだ」と話した。試合はボローニャでのユーゴスラビア対UAE。主審が高田静夫さんだったのだ。プレスオフィサーは私を待たせたまま、その会場の審判責任者に確認に行ってくれた。残念ながら結果は「ノー」だった。

「レフェリーの試合後会見? そんなものありえない」

 現在も、もし審判界をリードする人びとに聞いたら、即座にこう否定されるに違いない。

 日本サッカー協会の審判委員会は、十年ほど前から判定についての見解を明らかにするようになった。2017年以降は定期的に報道関係者を対象にした「レフェリングについてのブリーフィング」を開催している。判定が正しかったのか間違っていたのか、正しいルール解釈、そしてどうしたら誤審を避けることができたか、主審のポジショニングなどを詳細に説明することで、この5年間でルールやレフェリングに関する理解は大きく深まった。

 2018年には、Jリーグが「ジャッジリプレイ」という動画をつくり、定期的に公開するようになった。そのときどきに論議になった判定について、意見をぶつけ合い、詳細に検討する動画は、その後公式ブロードキャスターであるダゾーンの人気番組となり、現在も続けられている。

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