■フラッグポストが6本あったワールドカップ決勝

 決勝戦に先立って「クロージングセレモニー」が行われた。大会中にチームバスとして使われた16台の大型バス(チームカラーで塗られ、チーム名がドイツ語で大きく書かれていた)がピッチ周囲のトラック上を「行進」し、その後には数百人のブラスバンドがピッチ内を行進しながら演奏した。こうしたアトラクションのため、ゴールこそ設置されたままだったが、フラッグは外されていたのだ。

 だがイングランドのジャック・テイラー主審はあわてない。選手たちと余裕の表情で話しながらフラッグポストが設置されるのを待った。巨額のテレビ放映権料で縛られ、キックオフ時刻を秒単位で決められている今日のワールドカップでは、考えられない光景だった。しばらくすると数人の係員が6本のフラッグポストを持って走ってくる。6本?。そう、この大会では、ルール上で「任意」となっているため、今日ではほとんど設置されることのないハーフライン外の2本のフラッグポストもきちんと設置されていたのだ。

 最後にバックスタンド側のハーフラインフラッグが設置され、テイラー主審が大きくキックオフの笛を吹く。そう、そのわずか1分半後に彼が2回目の笛を吹くとき、それが西ドイツのウリ・ヘーネスがクライフを倒し、オランダにPKを与えるものになるとは、このときには誰も知るよしがなかった…。

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