東京五輪の金メダルは、ブラジルが獲得した。8月7日の決勝戦は延長戦に持ち込まれ、ブラジルが2対1でスペインを退けた。
大会通算6試合目である。両チームともに消耗は激しかったはずだが、決勝戦にふさわしい攻防が繰り広げられ、戦術的にも多くの見どころが詰まっていた。
川崎フロンターレと日本代表で活躍した中村憲剛さんは、「サッカー大国によるサッカーの面白さが凝縮した戦いでした」と言う。南米と欧州を代表する大国が見せたサッカーを、技術的、戦術的、心理的側面から解きほぐしてもらった。
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【前半終了時点、ブラジル1対0スペイン】
スペインのデ・ラ・フエンテ監督からすれば、前半は0対0で折り返せばいいというイメージだったと思います。ボールを持っている時間はブラジルより多少長いものの、決定機は思った以上に作れず、ビルドアップを阻害され、ショートカウンターを食らうシーンもありながらも、失点はしていなかったからです。
ただ、前半終了直前に失点したことと、コンディション不良があったからなのか、後半開始とともにアセンシオとメリーノを下げ、ブライアン・ヒルとソレールを起用しました。
アセンシオは日本戦で値千金の決勝ゴールを決めましたが、コンディションが上がっていないようで、攻撃ではいつものキレは見られず、守備でもブラジルの左SBアラーナの攻め上がりについていけなかった。
それに対してブライアン・ヒルは、ひとりで運べるし、周りと連携を取りながらでもいける。守備もアセンシオより献身的にできます。それから、とにかく速い。前半のスペインに欠けていた躍動感がありました。
デ・ラ・フエンテ監督は、選手交代が早いタイプですが、前半を0対0で終えていたらひょっとしたら誰も交代せずに後半に入ったかもしれません。後半開始の2枚替えには、「早く追いつきたい」という意図を感じました。そのとおりに選手交代で攻撃が活性化し、後半はスペインのゲームになっていきました。
ただ、スペインが同点に持ち込むまでに、決定的なピンチがありました。51分、ダニエウ・アウベスの縦パスを起点に、リシャルリソンがペナルティエリア内でDFを外してGKウナイ・シモンと1対1になります。
ここで、GKウナイ・シモンが立ちはだかりました。こういったシーンでは、GKが我慢できずに先に動いたら攻撃側の勝ちだと僕は考えます。GKが先に動いたほうが、シュートコースは見えやすいのです。
ところが、彼は動かなかった。PKでもそうでしたが、彼は相手のフェイントに乗りません。身体のどこかに当てれば何かが起こるという構えかたで、リシャルリソンのシュートを左足でブロックしてバーに当てることに成功しました。実は延長後半の失点シーンでも、同じようなセーブをしていました。
シュートを打つ側からすると、あれだけ我慢できるのはすごいと思います。GKを見てシュートを打つ選手だった僕からすると、とても嫌なタイプです。
ここで2失点目を喫していたら、ゲームの趨勢は決まっていたと思います。ですが、2点目を許さなかったことで、ゲームの流れはスペインに徐々に傾いていき、61分に同点弾が生まれます。