■一進一退のぶつかり合いになった

 焦らず冷静に試合を進めるイングランドは39分、ディフェンスラインのズレを見逃さなかったブカヨ・サカが一気にスピードを上げると、やはりそれを見逃さなかったハリー・ケインが完璧なパスを通した。完全に抜け出したサカはラヒーム・スターリングにラストパス。懸命に戻ったシモン・ケアーが体を投げ出したが、ボールはオウンゴールという形でネットを揺らした。

 その後は一進一退の攻防を見せたが、スコアは動かず。サウスゲート監督は69分にジャック・グリーリッシュを投入し、グリーリッシュを左、スターリングを右という形でドイツ戦と同じように攻勢を強めたが、今回はゴールが生まれないまま延長戦に突入した。

 PKまでもつれてしまえばホームの声援が大きなプレッシャーになることをサウスゲート監督は痛いほど知っているが、ここでもやはりイングランドに焦りはなかった。

 そして102分、ドリブルで仕掛けたスターリングがペナルティエリア内で倒されてPKを獲得。ケインのキックはカスパー・シュマイケルが1度弾いたものの、そこをケイン自身が詰めて、とうとうイングランドがリードを奪った。

 すると直後、サウスゲート監督は途中投入していたグリーリッシュをキーラン・トリッピアーと交代した。グリーリッシュの出来が酷かったわけでも、信頼がないわけでもない。今のチームの中ではスコアを動かすためのジョーカーという立ち位置になっているグリーリッシュの役目は、リードをしたことで終わったのだ。つまり、試合を閉じるぞ、あとは無難に逃げ切るぞ、ということだった。大会の中で一貫した起用法をとってきたことが、そのメッセージをより明確に伝えることに繋がっている。

 この試合ではここまでずっと個人の能力差に任せていた形だったが、これはチームが目的のために1つになっていることを象徴するシーンだった。

第2回につづく
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