■バディージャ主審は真実を告白した

 現在のルールでは「空費されたすべてのプレーイングタイムを追加する」とあるだけだが、当時のルールには「空費された時間をどれだけ延長するかは主審が判断する」とあった。たしかに、現在も、アディショナルタイムの長さを決めるのは、試合の唯一の「計時係」でもある主審の権限で、第4審判は主審から知らされた追加時間をボードで示しているだけだ。

 だが現在だけでなくこの試合が行われた1997年当時も、空費された時間を数えたり数えなかったりする自由が主審に与えられていたわけではない。この少し前まで「競技規則」のブックレットに掲載され、このころには国際サッカー連盟(FIFA)のホームページに掲載されていた「質問と回答」というルールに関する一問一答のなかに、以下のような記述があった。

 質問:「空費された時間(負傷その他の理由)を補うか否かを決定することは、主審の裁量に任されているか?」
 回答:「No。主審は試合の前半、後半のそれぞれに空費された時間は追加しなければならない。しかしながら、どれだけの時間が空費されたかは、主審の裁量に任されている」

 この試合の後半には、5回の交代があった。交代はいずれもスムーズに行われ、主審が交代を促してから試合再開の笛を吹くまでに要した時間は10秒ないし20秒だった。

 後半25分にUAEのアリハッサンが倒れ、担架で運び出されるまでに55秒を要した。

 後半30分、モハメドオバイドの負傷でドクターがはいり、45秒中断した。

 後半44分、GKムフシンの負傷と治療で、再開までに1分22秒かかった。

 この3回は、いずれもバディージャ主審が自ら笛を吹いてプレーを止め、処理が済んだ後にまた笛を吹いて再開している。合計時間は3分02秒である。これに交代を加えれば、少なくとも4分にはなるはずだ。このほかに、後半42分には、城彰二が相手選手を突き飛ばしてイエローカードを受け、そのときの混乱で少なくとも数十秒が空費されていた。

 バディージャ主審は、試合前にUAE側から「謀議」をもちかけられたと、後に告白している。

第3回につづく
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