「私論 21世紀のオリンピック」(1) 東京大会を開催するなら「無観客」の他はないの画像
新国立競技場はどうなるのか…… 撮影/編集部
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22歳のキリアン・エムバペは、東京オリンピックに召集されなかったらしい。それは、そうだろう。国際サッカー連盟(FIFA)が定める代表活動期間ではないし、仮にフランスサッカー連盟が招集をかけても、所属クラブのパリSGに承諾する義務はない。世界のサッカーの最先端では、もう長らくオリンピックは商業主義にのっとったひとつのスポーツ・イベントであり、特別視はされていない。ここ日本でも、オリンピックを理想化する理由はもはやないのではないか――。

Jリーグとオリンピックの観客はまったく違う

 新型コロナウイルス感染症の流行はいまだに収束の気配が見られない。ワクチン接種はかなりのスピードで進んでいるものの、全人口の7~8割の接種がすんで「集団免疫」を獲得するにはまだ半年ほどの時間が必要だろう。東京など首都圏では新規感染者数の増加が続き、“第5波”の到来も取り沙汰される。

 しかし、IOC(国際オリンピック委員会)やIPC(国際パラリンピック委員会)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会などは東京大会の開催を強行する構えだ。彼らが開催にこだわるのは当然だろうが、本来なら国民や都民の生命と健康を守るべき日本国政府や東京都も開催に向けての準備を(菅義偉首相のかつての常套句で言えば「粛々と」)進めている。

 しかも、有観客で、である。

 菅首相をはじめとして政府はよく「プロ野球(NPB)やJリーグのスタジアムでは感染拡大が発生していない」という。だから、オリンピックでも同じように「収容人員の50%または1万人以内」の観客を受け入れることが可能だというのだ。

 たしかに、JリーグやNPBは感染拡大が始まった初期段階から協力して感染対策を進めることによって、早い時期から制限付きで観客を入れながら開催を続けてきた。

 だが、それとオリンピックを同等に扱っていいとは思えない。

 まず、プロ野球やJリーグは全国で展開されているイベントであり、たとえば東京都内で同日に開催される試合は最大でも(プロ野球とJリーグを合わせて)4試合程度だろう。ところが、オリンピックというのは当然のことながら東京都内が中心であって、例えば有明などの臨海ゾーンには会場が密集している。1会場の観客が5000人だったとしても、合計すれば数万人が一つの地域に集中するのだ。

 第二に、政府は観客に「直行直帰」を求めている。「試合が終わったら、すぐにお家に帰りましょう」というわけである。

 NPBやJリーグでは、これは実現可能な要求だ。

 ファン、サポーターの多くは近隣住民である。川崎の等々力陸上競技場にやって来るフロンターレ・サポーターの多くは川崎市民であり、徒歩や自転車でやって来る人も多い。しかも、このような状況の下でチケットを確保して観戦にやって来る人たちの多くは、年に何度も観戦・応援を楽しむリピーターであり、彼らにとってサッカーや野球の観戦は“日常”なのであり、「直行直帰」する人たちはもともと多い。

 一方、オリンピックの観客の多くは、いわゆる“一見さん”だ。

 目的は「オリンピックの見物」であり、そのスタジアムやアリーナに来るのは初めてという人も多いし、そもそもスポーツ観戦に慣れていない人だって多い。そして、「オリンピック見物」の観客のうちかなりの割合の人たちは東京都内や首都圏以外からやって来る。
 JリーグやNPBと一緒にできないのは当然のことである。

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