■「終わった選手」とのレッテルを覆して

 カナレスは今年2月、20代を卒業した。三十路に入った男の言葉は味わい深く、示唆に富む。

「ずいぶん前から、失敗への恐れはなくなった。僕のように若くしてキャリアをスタートさせると、常に『彼には期待していたんだが...』という言葉がつきまとう。今となっては、そういう言葉に僕は傷つかなくなった。その反対だよ。僕は目標を見据えて、働き続ける。大きな目標もあれば、小さな目標もある。そういったものを達成できなくても、それまでの道のりを楽しむようになったんだ」

 カナレスはその後、バレンシア、レアル・ソシエダベティスと複数クラブを渡り歩いた。度重なる負傷に苦しめられ、幾度となく“終わった選手“だと揶揄された。それでも2019年3月にスペイン代表デビューを飾り、現在はベティスで必要不可欠な選手になっている。彼が華々しくR・マドリードに入団してからA代表デビューに至るまで、10年以上の歳月は必要なものだった。

 カナレスと似たようなケースがある。テオ・エルナンデス(現ミラン)の例だ。

 テオ・エルナンデスは、兄であるリュカ・エルナンデス(バイエルン・ミュンヘン)と共にアトレティコのカンテラで育った選手だ。当時から将来を嘱望され、アトレティコで高い評価を受けていた。2016-17シーズンのアラベスへのレンタル移籍が、キャリアの転機になった。リーガ1部でインパクトを残したテオ・エルナンデスに、食指を動かしたのは、やはりR・マドリードだった。

 同じ街のライバルクラブへの、いわば”禁断の移籍”だが、19歳の才能を逃すまいとR・マドリードは契約解除金2400万ユーロ(約31億円)を支払う準備を整えていた。アトレティコは拒否の姿勢を示したが、最終的には移籍金2600万ユーロ(約33億円)で取引が成立した。

 2017年夏にR・マドリードの一員になったテオ・エルナンデスだが、ジネディーヌ・ジダン監督のファーストチョイスはマルセロだった。リーガ13試合出場にとどまったのち、レアル・ソシエダへのレンタルを経て、2019年夏にミランに完全移籍。現在は、セリエAで最高の左サイドバックの一人と評価されるようになっている。
 

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