■憧れのオールド・トラッフォードで大儲け

 そこで、メディアセンターを巡回している技術スタッフに事情を説明しました。そのスタッフもトライしてくれたのですが、どういうわけかうまくつながりません。さんざん苦労したそのスタッフが、哀れな日本人を気の毒に思ったのか、それとも何か別の用事で急いでいたのかわかりませんが、僕をメディアルームの端っこにあるテーブルに連れて行ってくれて、僕の耳元で小さな声でこう囁いたのです。

「このモジュラージャックな、通信会社専用のやつでよ、無料通話できるんや。プラグを差し込んでダイヤルすれば、無料だぜ。俺が教えたなんて誰にも言うなよな」

 本当かい? 半信半疑でマンチェスター市内のアクセスポイントにつなげてみました。バッチリつながって、原稿を送ることもできました。

「待てよ。国際電話もできるんかいな?」

 そう思った僕は、日本のアクセスポイントにダイヤルしてみたのです。すると、これも簡単につながりました。一切、課金なしです。

 もちろん、その後は原稿を送る時はいつもそのモジュラージャックを使うことになりました。スタッフに「誰にも言うなよ」と言われましたが、もちろん言うわけはありません。使えなくなってしまったら大損です。

 その4年後のEUROはベルギーとオランダの共同開催でした。やはり、この時も原稿はダイヤルアップで現地のアクセスポイントにつないで送っていました(LANケーブルが使えるようになったのは、そのさらに4年後のポルトガル大会からでした)。

 ベルギーのブリュッセルのメディアセンターでは通信をするための特別な部屋がありました。その中のブースで有料で回線を使わせてもらうのです。どういう料金体系になっていたかというと、入口に立っている番人がブースに入った時間と出てきた時間をチェックして滞在時間によって課金するというのです。なんとも原始的でアナログな仕組みでした。

 つまり、ブースに入って一度も回線を使わないまま退出しても、ずっとつなぎっ放しでいても料金は同じなわけです。こちらとしては滞在時間を短くするために全部の原稿を書いて「あとは送信するだけ」という状態にして入室して、終わったらすぐに出てくるようにします。で、ここでも思ったのです。

「待てよ。国際電話もできるんかいな?」、と。

 できました。つまり、ブースに入ったら、回線をいっさい使わずに出てきても、ブリュッセル市内のアクセスポイントにつなげても、国際回線を使って日本までかけても、料金はまったく同じですむというわけです。

 今は、メディアセンターに行って無線LANを使って接続し、暗証番号を入れてつなげれば、無料でいくらでもインターネットが使えますし、無料通話アプリを使えば日本とも無料で話せるのです。便利な世の中になったものです。

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