■敵の準備を無効化するサッカー
守備の変化がピッチ上でしっかり表れてくると、攻撃の変化も見られるようになった。右サイドバックのセルジュ・オーリエが内側に絞ってプレーすることが目立ち、初めは右に配置されたギャレス・ベイルと違うレーンを使うように気を遣っているようにも見えたが、後半になるとどういう攻撃をしたいのかが、ピッチ上にはっきり表れるようになった。
実際には、全体が中央を意識したプレーをするように意識づけられていたのだ。
どうやら、前で守備を終え、そこから展開の速い中央からの攻撃を狙うことが、この2日間で仕込まれた戦い方のようだった。序盤の距離感の悪さは、ケインの不在が理由ではなく、その変化を実際の試合の中で調整する時間帯だった。
前で守備を終えて速い攻撃、というのはカウンターのようだが、そういうわけではない。
それは、横幅ではなく狭いところで選手同士が絡み、ゴールに向かってボールが素早く動く攻撃だった。
前線の4枚はペナルティエリアの幅に収まるようなコンパクトさを基本とし、中盤はサイドチェンジではなく、ダイレクトパスやサイドからアーリーなタイミングで速いボールを、ペナルティエリア中央に向かって入れる。前線の選手たちはそのボールに集まり、ペナルティエリア内で複数人が至近距離で絡んでシュートを放つ。
カウンターではなく、相手の守備陣形が整っている状況から試合のペースを一気に上げ、相手に対応のための時間的余裕を与えない。自分たちのハイペースに巻き込むことで敵の準備を無効化して支配するサッカーを狙っているようだった。