■怒りだした長身で金髪のロシア人女性
さて、到着した僕たちは(何番だったかは忘れましたが)空港内の搭乗ゲートの前で待っているように言われました。入国ビザを持っていませんから、入国手続きはできません。ゲートからバスに乗って市内を観光して、再び空港のゲートに戻ってくるというわけです。
ところが、指定の場所で待っていても、誰もやって来ません。迅速な対応などハナっから期待していませんが、1時間経ち、2時間近く経っても何事も起こりません。隣にはアメリカ人やカナダ人のグループも待っていますが、彼らも待ちぼうけです。
「いくらなんでも」と思ったので、アエロフロートのオフィスに行ってみることにしました。ようやくオフィスを探し出して中にいる人物に事情を話します。幸い、このオフィスが担当部門だったようですが、担当者は「書類がなきゃ、ワシら動けんからなぁ」と言っています。まあ、官僚主義の国ですから書類がなければ動けないのは当然です。
つまり、書類があればいいわけです。そこで、僕は「書類があるとすれば、どのへんかなぁ……」と見回しました。そして、その辺のデスクの引き出しを勝手に開けて探していたら僕たちのツアーの書類が入ったファイルを発見しました。
「ほら、ここにあるじゃないか」
「あ、ほんまや」と担当者。「すぐ行くから」というわけで再びゲート前で待っていました。
すると、背の高い金髪のオネエサンがつかつかと歩いてやって来ました。
「バスが来たら日本人グループはバスの左側に。アメリカのグループは右側に座るように。いいですか」と、ニコリともせずに指示します。「遅くなってごめん」の一言もありません。
で、バスに乗って僕たちは左側に座って待っていました。アメリカ人たちも普通に右側に座っていました。すると、オネエサンに怒られてしまいました。「アンタたち左側って言ったでしょ」と。
「???」
僕たちは「左側」と言われると、バスの進行方向(つまり前)に向かって左側だと思います。しかし、オネエサンは、バスに乗った瞬間のことを言っていたのです。バスに乗り込んで車内に入った瞬間、僕たちは後ろを向いて立っていることになります。その時に左手の方向(つまり、進行方向右側)がオネエサンの言う「左側」だったのです。
いやはや、文化の違いというのは恐ろしいものです。
幸い、市内観光のガイドさんは日本語を話すとても気さくで親切なオバサンでした。楽しい市内観光にをすませた僕たちは、その後は何事もなく成田空港に到着しました。
成田から僕はタクシーに飛び乗って東京・代々木のNHK放送センターに駆け付けました。一次予選突破記念番組に生出演の予定があったのです。事情を話すと運転手さんも喜んで飛ばしてくれて、無事、放送終了前にスタジオ入りすることができました。
たかが一次予選を突破したくらいでNHKが特別番組を編成する。そんな古き善き時代の昔話でした。