■エレベーターで加藤久本部長とばったり
さて、一方の京都サンガF.C.としては、82分まで得点できないのは“昇格候補”としてはもどかしい内容だったのだが、問題はこれをどう捉えるかである。
試合終了後に、スタンドから降りるエレベーターの中で現在は京都の強化本部長を務める加藤久氏とばったり顔を合わせたので、わざと「苦しめられましたね」と否定的な評価を向けてみた。長い話はできなかったのだが、加藤氏は「いや、そんなことないよ」といった表情だった。
守りを固めた相手に対してなかなか得点は奪えなかったものの、最終的には2ゴールを決めて勝点3をしっかり確保できたのだから、否定的な試合ではまったくない。もちろん、理想的には早い時間に得点できていれば完璧なのだが……。
京都側からの視点でこの試合を評価するとすれば、「骨太の」試合といった言葉で表現したい。
サッカーというスポーツでは、守備を固める相手に対して得点を奪うことは容易ではない。たとえば、ラグビーでは、ボールを前に前に運んでいけば、いつかはゴールラインに到達し、ゴールラインの向こう側にボールをグラウンディングすれば得点(トライ)となる。もちろん、相手の守備をかいくぐってトライするのは容易なことではないが、「ボールを前に進める」という作業とトライの間には本質的な差はない。
だが、サッカーではボールがゴールラインに到達してもゴールキックかコーナーキックになるだけである。ゴールを奪うためには、横幅が8ヤード(7メートル32センチ)、高さが8フィート(2メートル44センチ)という小さなゴールの枠の中にボールを送り込まなければならないのである。そのゴールの枠の前には屈強な男たちが何人も立ちはだかって、ボールをクリアし、ブロックしようとする。しかも、その中の1人は手を使ってボールがゴールの枠に飛ぶことを阻止する権利を持っているのだ。
このゴールのサイズが決められた19世紀の後半、イングランド人の体格が今より小さかったことを考えれば、ゴールを陥れることの難度は当時よりも上がっている。
攻めても攻めても得点にはならない……。サッカーは「攻撃の回数と得点数が必ずしも比例しないから番狂わせも起きやすい」という、実に不条理なスポーツなのである。