■連日のように至福の超絶グルメを堪能

 釜山は食材の宝庫です。港町ですから鯖や鱈、河豚といったメジャーな魚から、アサリやハマグリなどの貝類、さらにホヤとかメクラウナギなど珍しくて美味しいものがいくらでも存在します。「メクラウナギ」というのは無顎魚類という原始的な脊椎動物で、その名称に差別的な言葉が含まれているというので、2007年に日本魚類学会が「ヌタウナギ」と改名しました。

 麺類でも、釜山には「ミルミョン」という独特の麺があります。

 1950年6月25日の朝に北朝鮮軍が南進を始めると北朝鮮軍の猛攻を受けて韓国軍は総崩れとなり、半島の最南端にある釜山近郊に追い詰められました。その後、マッカーサー元帥率いる国連軍がソウル近くの仁川(インチョン)に上陸して形勢を逆転するのですが、その間、釜山には多くの難民が殺到。食糧難の中で、平壌(ピョンヤン)出身の人たちが米軍放出の小麦粉を使って、本来ならそば粉を使う平壌冷麺を再現しようとして作ったのがミルミョンです。

 韓国料理を食すのに欠かせないソジュ(焼酎)にしても、ソウルでは日本でもお馴染みの「眞露(ジンロ)」や「チャミスル」が主流ですが、釜山では地元メーカーが作る「大誠(テソン)」や「C1」が有名です。

 肉類も釜山は牛のカルビが有名ですし、豚も鶏もあります。食事のために遠出したのが「黒山羊の焼肉」でした。

 黒山羊料理で有名なのは、釜山広域市北部の景勝地、金井山(クムジョンサン)の金城(クムソン)村で、今ではかなりメジャーになって日本語ガイドブックにも載っていますが、当時は外国人が訪れるような場所ではありませんでした。ちょっと不安だったので、韓国語が堪能な女性記者を(強引に)誘って地下鉄1号線の温泉場駅からタクシーに乗って行きました(バスもありますが、夜になると本数も少ないので)。

 タクシーが村に到着すると、周囲の食堂からオバサンたちが飛び出して来て、客の腕をつかんで「ウチに来いや」、「いや、こっちさ来んかぁ」、「オラんとこさ、うめぇべ」と客を自分の店に連れ込もうと必死です。

 山羊肉は脂肪が少なく健康的。ちょっと堅いですが、じっくり噛んでいると肉の旨味が口の中に広がっていきます。

「食堂」といっても農家の母屋のようなところでした。そこの客間でソジュを飲みながら待っていると山羊肉の炭火焼が山のように出てきました。韓国の焼肉が、今のようにテーブルの上で自分で焼くスタイルになったのは比較的最近のこと。厨房で焼いた肉を持ってくるのが本来の形です。

 毎日、地元の料理だけで暮らしても飽きないこの国、僕は大好きです。

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