■ゴールを近づけたストーク・シティFC
もし、ロングスローというのが非常に特殊な技術であって、長い距離を投げられる選手がごく少数だったとすれば、それはそれで大きな興味の対象となる。
たとえば、かつてイングランドのプレミアリーグにロリー・デラップというアイルランド代表選手がおり、彼のロングスローはそれ自体が一つの見ものだった。
とくに彼がストーク・シティに在籍していた時にはピーター・クラウチという201センチある長身FWがいたこともあって、デラップのロングスローは大きな武器となっており、2011/12年シーズンにはストークはUEFAヨーロッパリーグにも出場した。
当時、ストークのホームグラウンドである「ブリタニア・スタジアム」(現在は「Bet365スタジアム」)を取材で訪れたことがあるが、ピッチ上には2本のタッチラインが描かれていた。
UEFA主催のヨーロッパリーグではピッチの規格が厳格に決まっているので105m×68mのピッチで試合が行われたが、レギュレーションが緩やかなプレミアリーグではピッチの幅を68mより狭くして、つまりタッチラインからゴールまでの距離を2mほど短くして戦っていたのだ。もちろん、デラップのロングスローを利用するためである。
当時は、あれほどのロングスローを投げる選手は他にいなかったから、デラップのロングスローは試合の「見せ場」の一つでもあった。
だが、ロングスロワーが増えて、どのチームもロングスローを多用するようになったとしたら、サッカーの面白さが消えてしまうのではないだろうか。
また、ロングスローを使う時には、CKとの同じように長身のDFがゴール前まで上がって来てセットアップしてから試合が再開されるので(もちろん、守備側も長身のCFをゴール前まで戻す)、試合が再開されるまでの時間が長くなってしまう。
かつて、1993年に日本で開かれたU17世界選手権(現・U17ワールドカップ)では「キックイン」というルールのテストが行われた。スローインの代わりにタッチライン上からのキックで試合を再開しようというルールだった。だが、ボールがタッチラインを割るたびにキッカーがやって来て、前線に長身選手を並べてから再開するので、試合再開まで時間がかかりすぎたためキックインは不評で、二度と議論されることはなかった。
ロングスローが一般化していけば、それと同じようなことが起こってしまうはずだ。