■スペイン人が良い選手を見分けるポイント
「文脈」というのは、スペインサッカーにおいてよく使われる用語であるという。
「スペインなどでは、プレーする状況の前後をどの様に解釈するかが求められ、プレー判断もその文脈に即したプレーが好まれます。さらにボール保持者へのプレス強度が高いため、プレースピードへの期待値も非常に高いです。プレー文脈を高速に理解する力が必要となります。
ビジャ選手が話した通り、日本人選手のテクニックレベルは海外トップレベルと引けをとりません。あらゆるプレー状況を解決できるテクニックを持っているため、プレー状況を先読みせずとも、エラーなくプレーを実行できます。
技術を高めた職人のような選手たちが、日本には非常に多くいます。ですので、状況に沿ったプレー文脈を理解し適切な判断とそのスキルを混合させたプレーをすることで、より多くのヨーロッパトップレベルで活躍できる日本人選手が増える、とビジャ選手は考えています。
そのため彼が育成メソッドを構築したDV7アカデミーでは、サッカープレーをどの様に理解するか、その理解のもとどの様な判断をすべきかなど、プレー判断の領域を重要視したトレーニングが中心です。
例えばトラップは原則としてボールを止めてはいけません。状況を理解し次のプレーをするために、よりプレーしやすい場所にボールを動かすファーストタッチを行います。さらに、受けた時にどこにボールを動かすかは、選手の質を見分けるポイントにもなります。味方、相手、スペースに即して次のプレーをどうするか、より早く効果的なプレーを行うためにどうすべきか、選手はその瞬間のプレー判断を行うために、受ける前に多くを認識する必要があるのです」
単に他とは違う奇抜なアイディア、あるいは独善的な技術が尊ばれるわけではない。その違いを示す象徴的なシーンが、ビジャが日本で展開するアカデミー、「DV7」における小学校低学年の子どもたちとのやり取りで見られた。
ある子どもが、「僕はリフティングができなくて泣いちゃうことがあるんです」と相談すると、一人ひとりに優しく、真摯に応対していたビジャはこう答えた。「僕の周りでもリフティングができない選手はたくさんいるよ」。
DV7でヘッドコーチを務める神蔵氏は、その場面を回想して、こう語る。
「あのリフティングの話はまさに、日本とスペインのサッカーの見方の違いの象徴でしたね。スペイン人が見るうまい選手というのは、グラウンドの中で良い判断を素早く行う選手です。
ドリブルが上手でも、どこにいてもドリブル突破を始めたりするのは効果的ではないよね、と考えます。試合のどこでドリブルするのが適切か、ということを落とし込めるように子どもへアプローチするのです。ドリブルのドリルトレーニングで動作を理解した後に、試合に似た状況でドリブルがキーアクションとなるトレーニングを行い、最後に試合で実践するという方法で体系的にドリブルというスキルをサッカーのゲームで効果的に使えるようにアプローチしています」
ビジャは今、世界数カ所にアカデミーを設置している。さらには、すでにクラブも所有している。次に勝負する場所は、アメリカ。その眼は、さらに世界中をつなぐ太いラインを見据えている。
<その5「驚くべきダビド・ビジャの世界戦略」に続く>
かみくら・ゆうた 東京都出身。大学卒業後、スペインにてスポーツ経営学を修める。卒業後、留学コーディネーターの現地駐在員としてバルセロナにて8年勤務。その後、アンドレス・イニエスタの日本への移籍に伴いヴィッセル神戸の通訳として業務を開始。翌年に神戸に加入したダビド・ビジャの通訳も務め、天皇杯獲得を置き土産としたビジャの引退と同時に神戸を離れる。現在はビジャが展開するDV7プロジェクトの日本支部マネージャー。
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