■示された昨季王者の底力
一方の横浜FMが示したのは、昨季王者の底力だったと言っていい。先制を許した11分後、選手たちから「ボス」と呼ばれるポステコグルー監督は、3枚同時にカードを切った。もちろん、全員攻撃的な選手たちである。
この選手変更に伴い、フォーメーションもアンカーを置いた4-3-3から変化させた。投入した天野をダブルボランチの一角に据え、運動量ある水沼を右サイドハーフ、オナイウにエジガルと2トップを組ませる4-4-2へと移行。この一手が、恐ろしいまでに当たった。
まず効果を享受したのが天野だ。コンビを組む頼れるキャプテン喜田に守備的な役割を託し、自ら持ち上がるなど推進力を前面に出す。すると交代から3分後、スペースができたバイタルエリアで、中央から左へと流れていく。その動きに呼応したように、水沼らがゴール前へと入るルートを探る。クロスが入る絵が描かれかけたが、そこに新たな一筆を加えられた。天野が得意の左足で送ったボールは、チームメイトと相手GKの間のほどよいところ、どころか、GKが伸ばした手をも超えてゴールへと吸い込まれたのだ。
この同点ゴールが運にも助けられたとすれば、逆転ゴールは意思の見事な結実だった。スローインからオナイウが落としたボールを受けた時点で、天野の決意は明らかだった。1タッチでエジガルへと縦パスを入れると同時に、短い歩幅でダッシュに移る。リターンを受けると細かなタッチで2人のDFを翻ろうし、飛び込むDFとGKの下を抜いて、鮮やかに左足で突き刺したのだ。交代出場から、わずか14分間での2ゴールだった。
その後に1点を返され、時間は残り5分を切っていたが、横浜FMには勝利しか見えていなかった。一番ギラついていたのは、交代で入った大津が背後に控える1トップへと入ったオナイウだ。87分、右サイドでボールを持った水沼がターンした瞬間、ゴール前へと加速する。一瞬生じたDFとの間に訪れたボールを、頭で決めた。
交代で入った3人によって生まれた3ゴール。湘南より少ない、わずかチーム合計7本のシュートで生まれたものは、横浜FMの質を示す。ディフェンディングチャンピオンの今季初勝利は、決して魔法などではない。