ブラジル紙『ガゼッタ・エスポルチーヴァ』
ブラジル紙『ガゼッタ・エスポルチーヴァ』

 コロナ禍が各国で引き起こしつつある、サッカークラブの経済危機。“サッカー王国”ブラジルも例外ではなく、リーグ中断による損失は決して小さくない。加えて、サポーターの失業による収益減というリスクもある。

 しかしそんな中、そのような不安を驚きの方法で払拭してしまったひとりの男がいる。地元紙『ガゼッタ・エスポルチーヴァ』が5月6日に掲載した、文字通り“サッカーにすべてを捧げた”熱狂的サポーターのインタビュー記事を紹介しよう。

 男性の名前は、フランシスコさん。サンパウロ州の強豪クラブで、2012年のクラブW杯ではチェルシーを破り王者となった、SCコリンチャンス・パウリスタ(以下コリンチャンス)の熱烈なサポーターだ。彼はこよなく愛するクラブへの忠誠心を示し、なんと7年先の2027年分までファンクラブ会費を前払いしたのだという。

 幼い頃からコリンチャンスのファンだというフランシスコさんは、自身の経済的な事情も含め、背景を語っている。

「俺はいつか職を失うとか、何かしらの理由で会費が払えなくなるんじゃないかと、常々考えていたんだ。試合に行くっていうのは、何より大事なことなんだよ。自分は自営業者だから、お金に余裕がある時もあれば、全くない時だってある。だから、少しでもお金に余裕があるときに都度、前払いをしていたんだよ。2019年にファンクラブのシステムが変わってからは、向こう何年分でも払えるようになったからね。で、気付いたら、7年分になっていたというわけさ」と、決してその場の思いつきではなく、日々の蓄えをファンクラブの会費に充て続けた結果なのだと説明。

 現在コリンチャンスのファンクラブの年会費は座席によるものの、最も高いプランでは4320レアル(約8万300円)だという。ブラジルは貧富の差が激しく平均年収は日本の10分の1以下とも言われ、彼自身の語り口からも決して安い買い物ではなさそうだ。

 なお、彼の熱狂ぶりはこれだけに留まらない。今回明らかにしてくれた会費の前払いの他にも、驚くべき“狂信者”としてのエピソードを次々に披露している。

「2013年、リベルタドーレス杯準々決勝セカンドレグのことさ。ボカ・ジュニオールズ(アルゼンチン)との試合だったんだけど、俺はそのとき腎臓結石を患っていてね。ちょっと訳あって手術も出来なかったんだ。なんなら、カテーテルが入ってる状態だった。でも試合だけはスタジアムにちゃんと観に行ったんだよ!」と、熱狂的“コリンチアーノ(コリンチャンスファンの愛称)”は武勇伝を振り返り、さらに続ける。

「2016年のリベルタドーレス準々決勝セカンドレグは、うちのホームでナシオナル(ウルグアイ)との試合だった。そのときは膀胱結石だったんだよ…。さすがに手術が必要でね。医者には『手術は試合の後にしてほしい』と頼んだんだけど、どうしても予定が合わなかったんだ。だから試合の前日に無理矢理手術してもらって、抜糸も済んでいない状態で試合を観に行ってやったよ」と、なんとも破天荒な思い出を綴っている。

 自らの健康を省みず、愛するクラブの試合の観戦にこだわるフランシスコさん。コロナ禍で試合が中断している現在の状況をどうみているのだろうか。

「今は止まってしまっていて観に行けないけど、再開したら週末は当然、週の半ばだろうと観に行ってやろうと思ってるよ。これまでホームでの試合を見逃したのなんて数えるくらいだしね。例えば、母親が入院して世話をしなきゃならなかったとき、あれは2017年6月11日のサンパウロ戦。3-2で勝った日だった。あとは、仕事の都合でどうしてもっていうときが1度あったかな。うちがアトレチコMGに2-0で勝った試合だった」と、日々の生活の中でどれほどまでにサッカーのことを考えながら過ごしているのか、精密機械のような記憶力で証明しつつ、最後にはこう締めくくっている。

「サッカーはもう俺の生活の中にがっちり組み込まれてるんだよ。(仕事中に)試合の時間になったら? 客の相手なんてしてやらないね!」

 これぞ“サッカー王国”のサポーター、というところ。スタジアムに足を運ぶ日が、一日でも早く訪れることを祈る。