「サッカー熱狂国」ブラジルはいま、何を報じているのか 第2回「王国の葛藤ーーライー氏が語る再開への道筋」の画像
「サッカー熱狂国」ブラジルはいま、何を報じているのか 第2回「王国の葛藤ーーライー氏が語る再開への道筋」の画像

 ブラジルでは政府、経済界から、国民的スポーツであるサッカーの競技再開へのプレッシャーがかかっているようだ。

 首都ブラジリアでは4月27日、ジャイール・ボルソナーロ大統領が再開に前向きな姿勢を見せており、「今この瞬間も(再開に向けて)動いている」と発言。経済省の特別秘書であるカルロス・ダ・コスタ氏も同日、ブラジルサッカーの再開は「すぐにも」と主張しているのである。

 そんな中、各クラブの状況はまた異なるようだ。ブラジル最大の放送局『ヘジ・グローボ』が運営するWEBサイト『グローボ・エスポルチ』が、サンパウロ州の名門クラブ、サンパウロFCのエグゼクティブ・ディレクターであるライー氏の独占取材を4月29日に掲載している。

 90年代に名選手としてサンパウロFC、ブラジル代表を支えたレジェンドは、

「はっきり言っておきたい。サンパウロFCとしては、いち早く戻ることを良しとはしていないのです。いつサッカーが日常に戻って来られるか分からない状況の中、クラブの状況に合ったタイミングで、トレーニングを少しずつ再開していきます」と語る。

 4月28日、CBF(ブラジルサッカー協会)と各地の協会が会合を開き、各州の状況に従って、各クラブの活動再開時期を5月中旬と置くことについて議論を行った。

 ライー氏はこう続ける。

「CBFは会合の場で、各州で再開の実現性をそれぞれ分析するよう、明確に伝えてきました。つまりこれは、州ごとの戦いになるということです。我々としてはトレーニングを再開するにしても、ルールに従い、検査を行い、安全を確保しなければなりません。FPF(サンパウロ州サッカー協会)のトップもその場にいましたが、まずは安全と健康が第一と発言しています」

 そのトレーニングの再開に関しては、

「これまで長い時間をかけて可能性を模索してきています。レコ会長(サンパウロFC)や協会とも意見交換を重ねています」と、あくまで慎重に検討してきていると語り、

「サッカーファンの皆さんに分かりやすく例えるとすれば、今は欧州サッカーの11月のようなもの。シーズンがどう転ぶかわからない。その欧州では、フランスやポルトガルはシーズン終了を決めそうですが、他の国は別の決定を下すかもしれない。非常に難しい状況なのです」と、結んでいる。

『グローボ・エスポルチ』の別の記事では、同じくかつての名選手、ジュニーニョ・ペルナンブカーノの出身地でもあるペルナンブーコ州が、前述の28日の会合のあと、早期の競技再開を明確に否定したと報じている。ペルナンブーコ州はCOVID-19の被害が今後も拡大するとされていることを鑑みての判断であるという。

 ブラジルではCOVID-19による死者が5000人にのぼる。うちサンパウロ州ではおよそ2000人、ペルナンブーコ州では500人超が亡くなったと言われている。(4月29日時点)

 政府や経済界の意向に耳を傾けながらも、各州の協会、クラブはきわめて慎重に、国民が愛してやまないサッカーの再開時期を見極めようとしているのだ。