選手のためにも移籍金が生まれる環境は必要
――2018年に三栄建設設計とRIZAP(ライザップ)グループが経営に加わり、変化はありましたか。
「年俸を上げることができたために違約金の設定も上がり、このオフの移籍ではこれまでと違い納得できるだけの移籍金が入りました。それまでは、5人も移籍したのに合計1億円ということもありましたからね。それでは、小さい頃から育成するのに費やした金額の回収には至らないのです。
今回の移籍で思ったのは、やはり移籍金が入る形というのはあるし、相手クラブも高い移籍金であっても払ってくれるんだな、ということです。これは選手のためにもいいことです。それほどの金額を払っても相手クラブが欲しいということは、ちゃんと評価されていることですから。
青田買いのように選手が移籍していく際、契約満了ではない何人かには『移籍金が安いから、2番手、3番手として声がかかっているんだよ』という話をしました。移籍金が安いということは、試合に使われる優先順位は低くなります。本来、移籍金を払った強化部としては、監督に使ってもらえる選手じゃないと自分の立場として困りますが、その逆の状況になるわけですから。
そういう意味で、安い金額で移籍しちゃダメだよと話しましたが、やはり皆、J1の大きいチームに行きたいわけですし、そういう移籍が実現すれば、当然ですが年棒も上がるわけです。クラブとしても後押ししてあげたい。しかし、結果として、その後に移籍先のJ1クラブで定着した選手は、決して多くはありません。だから、ちゃんとお金を払ってもらえる世界をつくるのは、選手のためにも大事な仕事だと思います」
――2007年の阿部勇樹選手の浦和レッズ移籍の際には、移籍金が3億円を超えたと言われ、リーグ全体の動きも活性化されました。
「しかしその後、2009年いっぱいで移籍金ルールが撤廃されてから選手は海外へ行きやすくなり、安い値段でJリーグから出ていってしまう時代が始まりました。私たちの選手が安い移籍金で引き抜かれた時と同じように、海外のクラブが動き出したということです。最近は少し状況は良くなり、それなりの移籍金を残しているようですが、基本的に正しい資金の回転ではないと思います」
――確かに、資金力のある海外クラブに安価で移籍するのは、もったいない気がします。
「選手がどうしても海外でプレーしたいという思いは100%理解しますし、日本サッカーのために必要なことです。チャンスを得られるというのもいいことだけれども、クラブとしてはビジネスになっていないんですよね。それが現状なんです。
このオフの移籍では、うちから優勝争いするチームに移籍できた選手が何人かいて、こちらにもそれなりの移籍金を残していってくれて、お互い前を向いてシーズンに臨めるわけです。こうなるルールがあればいいけれども、それがない状況では、やはり元手を増やすしかない。だからライザップグループなどと組んで、現状をつくり出したということです」
(第2回へ続く)
眞壁潔(まかべ・きよし) 1962年、神奈川県平塚市生まれ。ベルマーレ平塚(当時)が存続危機に陥った1999年に、地元の平塚市商工会議所青年部の一員として、クラブに関わるようになる。クラブの取締役を経て、2004年に代表取締役に就任。Jリーグや日本サッカー協会の理事を歴任、湘南ベルマーレでは2014年から会長。