渡邉晋(右)と岩本輝雄 撮影:中地拓也
渡邉晋(右)と岩本輝雄 撮影:中地拓也

 

 黄金の左足・岩本輝雄と杜の都の知将・渡邉晋の対談の2回目は、選手起用の話題から始まります。対談1回目で、「難しい問題なんだけど、選手を守ってる感がすごく強すぎるのかな」と監督時代の葛藤を明かした渡邉は、「選手を自立させるためには、ある程度ほったらかしにして、“自分で考えろ”くらいにあえて突き放したほうがいい場合もあるのかな」との考えも述べていた。

 そんな渡邉が、”チームの戦い方がある中で選手起用をどう捉えていたのかに迫ります。 (以下、岩本=岩本輝雄、渡邉=渡邉晋、――=編集部)

 

――話は変わりますが、たとえば去年、椎橋慧也選手が途中からぱったり出場機会を失いました。しかも、リーグ戦で退場があった直後からのことでした。2018年シーズンの終盤にスタメンを掴むなど伸び盛りの選手でしたが、監督としてどのような決断があったのでしょうか? 個人的なことに触れる必要はありませんので、監督論としての考えを話せる範囲で教えてください。

渡邉  あの場合は、退場そのものが出場機会を失った理由ではありません。出場停止となった試合で富田(晋伍)が出て、そこで富田が良かったからそのまま富田がずっと出続けただけなんです。だから、退場とか罰則とかどうのこうのではない。あのときのチーム状況として、まずは守備を第一にしなければならなかった。チームをコンパクトにして守ったときに、ボールを取れるのが富田だっただけです。それが、試合でやってみたときにしっくりきたということなんです。

 選手によって特性は違います。椎橋が守備ができる・できないということではなく、彼の場合、広い範囲で動いての守備がとても得意なんです。それに、戦術理解度がものすごく高いから、「こういう戦い方ってできる?」みたいなことを言ったときに、「はい」って言って、ピッチで実際にそれをバーッとやってくれる。  ただ、あの当時のチーム状況で守りに比重を置いて戦ったときに、そっちよりも富田の守備の仕方のほうがチームとしてメリットが大きかった。だからあの選択は、個人の問題ではなくチームとして戦ううえでどうすればいいかということだったんです。

――監督としてはとても難しい判断ですね。

渡邉  もっと難しかったのは、去年の26節の札幌戦ですね。その週の練習で、椎橋の動きがすごく良かった。それまで富田がスタメンだったんだけど、椎橋にしてみようかと、すごく迷った。でも、そのときもチームとして札幌とどう戦うか、を考えた。

 まず、札幌と戦ううえで、個人能力で秀でたチャナティップ選手にはほぼほぼマンツーマンをつけようと思ってたんです。そうなると、その役割を誰にやってもらおうかと。それを富田にやらせるか、あるいは、椎橋にするか。そういう選択だったんです。あれは相当悩みました。最終的に富田にやってもらうことになったんですが、そのときも椎橋には説明しました。「今のおまえはすごい調子いいけど、今回は富田で行く」と。その理由として、チャナティップ選手と1対1になったときに、1回でも入れ替わっちゃったらウチは一気にピンチになる。で、富田はしつこく守備をするんだけど、“ここで行ったら入れ替わる”って思ったら、行かないんですよ。それは、ベテランである彼の経験による部分もある。  椎橋は東京五輪を狙うような若い選手で、もしかしたら1対1ですべてに行っちゃう可能性がある。もし100回行って、それで99回取れても、1回入れ替わっちゃったらウチの守備は危ないことになる。そしたら、そのケアも事前にしておかないといけない。  だから、選手を選ぶという作業は、チームとしてどう戦いたいか、そして、相手チームがどのような戦い方をするか、という部分で大きく変わってくると思います。だからその当時、ある選手には「もし1対1で取りに行ってしまって、取れないってことが出てくると思う。ただそれは、今のチームの戦い方としてちょっと困ることが多いから」って話したこともありましたし。

岩本  それは確かにそうだね。1対1で入れ替わらないために、ステイする。同じ1対1でも、チーム状況を考えて行くか行かないかを選択する必要があるからね。

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