ミャンマーはお酒がおいしい国だった
そんな不便な街なので、民間企業はヤンゴンから移転せず(日本大使館は今でもヤンゴンにあります)、役人でも家族をヤンゴンに残している者が多いとも言います。巨大なビルが立ち並んではいますが、幅の広い道路には車の数も数えるほど。何かのウイルスが流行っていたわけでもないのに、とにかく街は閑散としていました。
それでも、もちろん労働者は必要ですから、雑然とした一角もあり、貧しい人たち向けの雑貨屋もありました。観光の帰りにそんな店で飲み物を物色していたらミャンマー製のワインを見つけました。「エタヤ(Aythaya)」という孔雀マークの赤ワインでした。最近はベトナムのワインもけっこう有名になってきていますが、ミャンマーでワインが作られているなんて僕はまったく知りませんでした。買ったのは“話のタネ”にするためであって、味に期待などはまったくしていませんでした。
ところが、ホテルに帰ってきてこれを開けたら、本当に美味しかったんです!
主なブドウ品種はシラーとドルンフェルダー。シラーはフランスのローヌ河沿いの地域(コート・デュ・ローヌ)の品種で、硬質で力強いワインができます。ミャンマーのワインもシラーの特徴を生かしたしっかりした味でした。そして、ドイツで人気の品種ドルンフェルダーの存在によって滑らかな仕上がりになっているようです。
後で調べてみると、この「エタヤ」はミャンマー北部のシャン州でドイツ人が開いたワイナリーだそうです。それで、ドルンフェルダーが使われているのでしょう。
東南アジアの熱帯にあるミャンマーですが、山地が多く、数多くの少数民族が住んでいます。シャン州はタイ系の有力な民族シャン族の土地です。
つまり、ミャンマーは低地から高地まで地形が複雑で地域によって気候もさまざまなのです。また、ダイヤモンドから翡翠、琥珀まで多くの宝石を産出するミャンマーですから、地質的にも複雑なはず。それなら、ワイン醸造に向いた土地があっても不思議ではありません。
ちなみに、低地を歩いていれば喉が渇くので、当然ビールも必要です。
最もポピュラーなのが、その名も「ミャンマー・ビール」。このビールは、さっぱりしたラガーでありながら、同時に深いコクも楽しめて、おそらくアジアの中ではフィリピンのサンミゲルと並ぶ最高のビールでしょう。
ミャンマーは敬虔な仏教国でありながら、ワインとビールがどちらもうまい酒飲み天国だったのです。
東京の高田馬場にはミャンマー・レストランがたくさんあるので、ミャンマー・ビールを飲むことは簡単にできます。残念ながら、ワインの方は輸入されていないらしいのですが……。