■ プロとしての覚悟と、サッカー界が見直すべきルール

「ソックスを切ってはダメなのか、と思いました。それで、もう下げるしかないなと。最初は怖かったです。今はもう慣れたから大丈夫ですけど」

 中村にとっては、スネを削られるリスクよりも、足がつって走れなくなるリスクのほうが大きかった。けいれんによって本来のプレーができなくなる。それは、アタッカーとして試合に関わり続けるうえで避けなければならない問題だった。

「ソックスを下げてプレーしたら、それが一番快調だったです。今となっては、僕のトレードマークみたいになっている」

 そう語る中村だが、そのスタイルが広く知られるようになったからこそ、本人は注意喚起もしている。子どもたちに向けて、自分の真似を安易にしないようSNSで呼びかけた。

「僕がソックスを短くしているのは、足がつりやすい体質で、長い間そのことに悩み続けてきたからです。不安や怖さもありましたが、しっかりと覚悟を持ち、プロになってからソックスを短くするようになりました」

 そのうえで、自主練習のときに憧れの選手になりきるのは構わないが、試合やチーム練習では危険なのでやめてほしい、と訴えた。中村自身も、プロになるまではソックスをしっかり長く履いてプレーしていたという。

 世界のトップレベルでも、ソックスを下げたり、カットしたりする選手は増えている。ただ中村の場合、その出発点ははっきりしている。足がつる。だから、ふくらはぎへの圧迫を避けなければならなかった。そのために、リスクを承知でソックスを下げた。プレーを続けるために選んだ苦肉の策だった。

 90分間、自分のスピードを失わないために。試合終盤までゴール前へ走り込むために。そして、日本代表の一員として、最後まで戦い切るために。
中村敬斗の低いソックスは、彼が自分の身体と向き合い続けてきた証なのだ。

 次なるラウンド32は、“王国”ブラジルとの大一番である。敗れれば即敗退となるこの極限の舞台で、再び中村敬斗のソックスが「標的」にされる危険性はないのだろうか。

 スウェーデン戦では一度ピッチ外に出され、最終的にはソックスに切り込みを入れて膝まで上げることで、なんとかプレーを続行した。しかし、「3年以上あれでやっているので、いきなり変えろと言われて困惑している」と本人が漏らした通り、事前の用具チェックを通過しながら試合中に突如としてルールが厳格化される事態は、選手にとってあまりにもアンフェアだ。

 FIFAの競技規則では、ソックスを低く履くこと自体は禁止されていない。ソックスの高さそのものを定める条文はなく、「ソックスをヒザ下まで上げなければならない」という明文規定も確認できない。実際、中村はグループステージ2試合で問題なくプレーできており、ヴィルツやジョレンテといった他の選手もW杯でソックスを下げてプレーしている。

 W杯の試合で求められるのは、シンガードがソックスで覆われていることと、適切な保護性能を備えていることだ。中村も小型のシンガードを着用している。

 ただ、「適切な大きさ」や「合理的な保護」といった基準には一定の裁量が残されており、最終的な判断は主審に委ねられる部分もある。中村はこれまで同様のスタイルでプレーしてきたが、スウェーデン戦では交換を命じられた。本校執筆時点でFIFAや審判団から正式な説明はなく、主審がシンガードやソックスの状態を規則に照らして問題があると判断した可能性が考えられる。一方で、中村は同様のスタイルでグループステージ2試合をプレーしており、他国代表にも同様の着用例が見られることから、今回の判断には疑問の声も上がっている。

 ブラジル戦という究極の大一番において、ルールの不透明な運用のせいで一人の才能あるアタッカーから集中力が奪われるような悲劇は、断じて繰り返されてはならない。

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