■才能を「最大限」に引き出す
現役時代は「ゆったりと動くMF」という印象が強い。身長179センチ。スピードがあるわけではなく、フィジカルはどちらかというと弱かった。しかし抜群のポジションセンスと攻撃を組み立てる能力を持っており、派手なプレーはしないものの、的確に味方につないで試合のリズムをつくった。所属したASローマ(1983年)とACミラン(1988年、1992年)をセリエA優勝に導いている。
1987年、ACミランがアンチェロッティをASローマから獲得するに当たって、アンチェロッティの膝の故障が懸念材料だったが、当時のACミラン監督アリゴ・サッキが「アンチェロッティの膝は80パーセントでも、頭脳は100パーセント」と言って、獲得に踏み切ったという話はあまりに有名だ。サッキの期待に応え、アンチェロッティはACミランに2回のセリエA優勝だけでなく、「チャンピオンズカップ」でも2回の優勝(1989年、1990年)をもたらした。
1992年、引退したアンチェロッティを即座にイタリア代表のアシスタントコーチに誘ったのは、その前年に代表監督に就任したばかりのサッキだった。
1995年のレッジャーナを皮切りに、30年間、5か国、延べ11クラブで監督を務めて数多くのタイトルを獲得してきたアンチェロッティの「指導者」としての最大の資質が、現役時代の彼を支えた「頭脳」にあるのは間違いない。試合の流れを読み、相手監督が次に打ってくる「手」を洞察し、的確に対処する能力がなければ、タイトルを手にすることはできない。
さらに、現役時代には、ASローマでパウロ・ロベルト・ファルカン(ブラジル)、ACミランではルート・フリット、マルコ・ファンバステン(ともにオランダ)といったこの時代の世界最高峰の選手たちとコンビを組み、彼らが才能をフルに発揮するのを助けたように、監督になっても選手との会話を重視し、その能力を最大限に引き出す仕事をしてきた。