
殊勲のアシストを記録したにもかかわらず、ミックスゾーンで「不甲斐ない」と繰り返すストライカーがいた。川崎フロンターレの歴史を塗りかえた直後のことである。選手もスタッフも一様に表情が明るい中で山田新はただ一人、自身の中に抱える感情をピッチの上で昇華させたいともがいていた――。
現地時間の4月27日、川崎はACLEファイナルズの準々決勝アルサッド戦をサウジアラビア・ジェッダのプリンス・アブドゥッラー・アルファイサル・スタジアムで迎えていた。カタールと日本のクラブ同士の戦いということで観客数は2000人台だったが、スタジアムの空席がうらめしそうにすら見える熱戦を繰り広げる。2-2のまま延長に突入し、互いに意地を見せあっていた。
試合の決着がついたのは意外なきっかけだった。瀬川祐輔が相手陣内の右サイドの高い位置でボールを奪うと、中に折り返す。その先にいたのは山田新。ストライカーがボックスの中で受けたシーンだったが、ここで山田はパスを選択。中央に走り込んでいた脇坂泰斗に冷静に流して、決勝点をアシストしたのだ。クラブの歴史を動かしたのは、瀬川の献身性、山田の冷静さ、そして脇坂泰斗の根性と技術があればこそのものだった。
試合後、山田に聞けば「瀬川君がボールを奪いそうだなっていう時点で、ヤス君の位置はなんとなく分かっていた」と振り返っただけでなく、「あそこが前半から空いていた」とも語って、狙い通りだったと明かしてくれた。