■最後まで見届けるわけ
鬼木監督に居残りトレーニングについて何度か聞いたことがある。最後まで見続けることについて尋ねると、その答えは明快で、以下の趣旨を明かしていただいた。
「もちろん、選手はそれぞれの目的を持ってやってますけど、それはみんな試合に出たいからやっている。(それぞれの弱い部分・強い部分を)どのぐらいできるようになっているのか、メンバーを選ぶ自分が見てあげないと不平等だし、(選手自身の)精神的にもそのほうがいいと思うんです」
先発メンバーとしてピッチに立てるのは11人だけ。ベンチ入りから出場できる人数も限られている。チーム一丸で勝っていくには、公平性を与えたうえでの競争も重要だ。
そして何度も繰り返し語っていたのが、「成長を見るのがうれしい」という言葉。負けが込んでいたある時期、「勝ててはいないですけれども」と前置きしたうえで、「でも、できることが増えているんですよ」と笑顔で話したことがある。それは一回だけではなく、その際に個別の事例を挙げることもたびたびあった。負けず嫌いで知られる鬼木監督ではあるが、同時に、育てることが好きな指揮官でもあるのだ。
そして、試合に出るには“基準”がある。それは厳しくジャッジしており、努力だけでは出られない。努力と、手にした成長・自信を持った選手だけを試合に送り出している。
このクラブからは多くの選手が羽ばたいていった。選手それぞれの能力とモチベーションはもちろんだが、それを促そうとする土壌があることは忘れてはいけない。
(取材・文/中地拓也)
【その2「選手同士の高め合い」へ続く】