■「健全な経済感覚」を持った人間

 ヴォネガットの「小説内小説」『転轍手の居眠り』の主人公は、アルベルト・アインシュタインである。会計士は彼にこんなことを言って責める。

「もしあなたがスイスのベルンにある自宅を抵当に入れて、EイコールMCの二乗だと世界に教える前に、その金をウラン鉱山に投資していれば、億万長者になれただろう」

「もしあなたがプリンストン高等研究所時代に貯蓄銀行に預けておられた金を、たとえば千九百五十年から、IBMとポラロイドとゼロックスに投資しておられたならば…」

 アインシュタインは、会計士たちが残酷なうそをついていると、神様に手紙を書く。彼の計算によると、「もし地球人のあらゆる人間があらゆる機会をフルに利用し、百万長者から億万長者、さらにはそれ以上になったとすると、この小さな惑星上の帳面づらの富が、たった三か月かそれぐらいで、全宇宙の鉱物資源を合わせた価値よりも大きくなってしまうだろう」

 現代のサッカーを取り巻く「公認会計士」たちや「投資顧問」や「ビジネス・マネジャー」たちが何と言おうと、三笘は「健全な経済感覚」を持った「まとも」な人間だ。それをしっかりと示せたことは、日本のサッカーと、何よりも三笘自身にとって素晴らしいことだった。

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