■「不安があった」コンディション
今一度、試合を振り返ると、今回のフラム戦に先立ち、三笘にはコンディションの不安があった。
前節サウサンプトン戦の終盤に相手選手から激しいタックルを受け、右足首を痛めた。ピッチでは足を引きずりながらプレーを続け、試合後のミックスゾーンでも痛めた箇所をテーピングで固定しているのが確認できた。
試合後、「終盤に足を痛めたように見えましたが…」と聞いてみると、三笘は「なんとか大丈夫です。痛いですけど、次も大丈夫です」と短く語り、中5日で行われるフラム戦の出場に問題はないとの考えを示した。その言葉通り、三笘はスターティングメンバーに名を連ねた。ブライトンの番記者を含めてホッと胸をなでおろし、フラム戦のキックオフを迎えた。
ただ試合が始まると、筆者は思わず首を傾げた。通常ブライトンは4−2−3−1で戦うが、ファビアン・ヒュルツェラー監督がピッチに送り出したのは3バックの新システム。今季から指揮を執るヒュルツェラー体制で、スタート時から3バックを採用するのは初めてのことだ。
しかも、フォーメーションの全容がどうも分からない。三笘は3−4−2−1の「2」の位置、日本で言うところの「左シャドー」に入っているように見えるが、タッチライン際のワイドエリアまで開いてボールを受けることが多い。そのため、必ずしも左シャドーとは言い切れない。サムライ戦士がワイドエリアに開くと、左SBを本職とするペルビス・エストゥピニャンが左シャドーの位置に侵入することも、フォーメーションの全容がつかめない理由だった。
一方、逆側の右サイドに目をやると、シモン・アディングラが右WB、マット・オライリーが右シャドーでほぼ固定。ふだん試合が始まると、筆者は取材ノートにフォーメーションを書き記すことにしているが、今回ばかりは「布陣と並びは何だろう…」と、その手が止まってしまった。
それでも試合が進むにつれ、おぼろげながら規則性が見えてきた。ブライトンがボールを保持すると、3−2−5に変形して敵陣に押し込む。おそらくヒュルツェラー監督の狙いは、ここにあったのだろう。
実は近年のブライトンは、フラムを非常に苦手にしている。ポルトガル人のマルコ・シウバ監督が率いるフラムに対し、ブライトンは過去2シーズンで1分3敗とひとつも勝利がないのだ。
ヒュルツェラー監督としては「フラムを錯乱させる狙い」と、「相手の4バックに対し、自軍のボール保持時に5枚のアタッカーを並べて数的優位を作る狙い」があったのではないだろうか。当然フラム陣営は、このアプローチ変更に混乱したに違いない。
ただブライトンの思惑通りにいかないのが、サッカーの奥深いところである。開始4分にGKのバルト・フェルブルッヘンがまさかのパスミスをし、あっという間に先制されてしまったのだ。それでもブライトンは気を取り直し、徐々に反撃していった。
攻撃の中心にいたのは三笘だった。前半17分と同34分にクロスボールからチャンスメーク。特に後者のグラウンダーのクロスは決定機となったが、シモン・アディングラのシュートは相手GKにセーブされた。後半にカルロス・バレバの驚異的なミドルで同点に追いついたものの、残り時間が約10分のところから2つのゴールを許して敗れた。
では三笘は、自身のパフォーマンスについてどのように考えていたのか。記者団から「特に前半は三笘選手のクロスで1−1の同点に追いつけそうな場面が多かったです」と問われると、本人はこう答えた。
「ああいうシーンを増やさないといけない。そこを決め切らないと、やっぱり試合が難しくなってしまう。全員が同じように感じていると思います。やっぱりゴールを決め切れば、自分たちの流れに持っていけるので。
一方、後半はなかなかボールも受けられなかったですし、高い位置で仕掛けることもできなかった。チームとしてもう少し丁寧につなぐ必要があったし、自分が違いを作らないといけないところもありました。(ボールに絡む)プレーの回数が少なかったのは自分の責任でもあるかなと思っています」
三笘の言葉は、ブライトンの新しいフォーメーションと、その狙いについて及んだ。(後半に続く)