■青森山田時代から「大きな話題」に
さて、「スローインを武器にする」と言えば、今季前半に大きな話題となったFC町田ゼルビアの「ロングスロー」である。相手陣深くに入ってのスローインをゴール前まで投げ、長身選手に狙わせるのは、別に新しい戦術ではない。しかし、高校サッカーで青森山田高校時代の黒田剛監督が多用して大きな話題になり、やがて高校サッカーで大流行した。
その黒田監督がJ2町田の監督に就任したのが昨年。守備を強化するとともに、攻撃ではロングスローで多くの得点を生み、J2優勝とクラブ史上初のJ1昇格に導くと、今季のJ1でもロングスローを多用し、相手チームを恐怖に陥れた。
ご丁寧にもビニール袋に入れたバスタオルを、タッチラインの外、ペナルティーエリアの延長線上あたりに置き、チャンスが来るとロングスローを得意とするサイドバックがおもむろに前進し、まずタオルを出してボールをしっかりと拭う。なにしろ昨今のJリーグのピッチは試合前やハーフタイムの水まきでビシャビシャだからだ。
そして後ろに下がって長い助走を取ると、ゴール前、とくにニアポスト前をめがけて投げ込むのである。高いボールあり、ライナーのボールあり。どんなボールを投げるか、何らかのサインで町田の選手だけが知っている。
落下点に配置されるのは、FW呉世勲(オ・セフン=194センチ)、DFイブラヒム・ドレシェヴィッチ(186センチ)といった長身選手たちである。彼らがヘディングで角度を変えてゴール正面に送り込んだところに、2人、3人がなだれ込むという形だ。町田が何をするかわかりきっていても、呉世勲やドレシェヴィッチに競り勝つのは難しく、守備側は苦境に立たされる。