ファンの思いを否定するかのような「猛アピール」

「レジェンド2人のプレーをピッチで少しでも長く見たいと考えているファンの思いを否定するかのように、フランクフルトのディノ・トップメラー監督は、時計を何度も指差すオーバーリアクションで、一刻も早く試合を終えろと、審判に猛アピールしていましたね」(カメラマン渡辺航滋氏)
 ファンたちの「待ってました」の気持ちを伝える、盛大な拍手に包まれてピッチに入った長谷部だったが、結局、一度もボールに触れることなく、現役最後のゲームを終えたのだった。
 試合後、ピッチに飛び込んできた2人の子どもを抱き寄せ、トレードマークの白い歯を見せてニッコリとほほ笑んだ長谷部。娘と息子に顔を埋めるようにして隠していたが、その目には、涙が光っていた。
 その後、胸に抱いたジュニアと一緒に、スタジアムに何度も手を振った長谷部(ジュニアの堂々たる様子は写真でご確認ください)は、同じく引退する同僚セバスティアン・ローデとともに会見に登場。ファン、クラブ、チーム、スタッフにドイツ語で感謝の気持ちを述べると、
「引退するのに最適のタイミングでした。自分のサッカー人生を誇りに思っています。フランクフルトは第二の故郷です。明日からは、ピッチに飛び込んできた2人のモンスターと一緒に過ごす、自由な時間が増えるはずだよ(笑)」
 と、大観衆の前でも物怖じしない大物ぶりを発揮した、愛する娘と息子をモンスターにたとえて、人々の笑いを誘ったのだった。
 長谷部は帰国後、5月24日金曜日に東京で会見を開き、「全く後悔はなく、大きな満足とともにキャリアを終えられた」とプロ生活を振り返った。

 引退後の生活だが、10シーズンを過ごしたフランクフルトに指導者として残り、何か月か休暇をとった後、育成年代の選手たち、U‐21、またはU‐19チームのアシスタントコーチに就任し、同時にライセンス(監督)の取得を目指すという。
 日本代表を爽やかな笑顔と確かなキャプテンシーで牽引した長谷部誠。「自分にとって家族はとても大きな存在だった」と美しい涙を浮かべた不世出のリーダーの第二の人生が、幸多からんことを祈りたい。

スタジアムには地元サポータによる横断幕が掲げられた。撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)
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