【J1広島がFC東京戦で交代カードを切らずに戦った深謀遠慮(1)】指揮官と選手が繰り返した「70分」の意味……川村「僕たちのサッカーはどうしても70分以降で…」の画像
FC東京戦で得点を喜んだ際、サンフレッチェ広島の選手は全員で喜んだ 撮影:中地拓也

 サンフレッチェ広島のベンチは最後まで動かなかった。それまでの「3」がコロナ禍で「5」に拡大され、今シーズンも継続されている交代枠をひとつも使わずに、敵地に乗り込んだFC東京戦を1-1の引き分けで終えた。
 30年を超えたJリーグの歴史を振り返っても極めて珍しいケース。広島においてもミヒャエル・スキッベ監督に率いられた過去2シーズンでは一度もない。試合後の公式会見。ドイツ出身の指揮官に、異例に映る采配の意図が問われた。
「今回スタートで出たメンバーのパフォーマンスに、非常に満足していたのがまず挙げられる。途中で70分過ぎくらいから少しパワー落ちてきたところは否めないが、それでも交代する意味はなかったかなと感じている」
 先発した11人は新スタジアムのエディオンピースウイング広島で、大型補強で注目された浦和レッズを2-0で一蹴した2月23日の開幕戦とまったく同じだった。優勝候補の呼び声をさらに高めた試合後に、スキッベ監督はこう語っている。
「70分くらいまでは前からボールを奪うことができたし、自分たちのよさを強く出せた。その後に関して言えば相手も盛り返し、最初からプレスに行っていたわれわれは最後の最後まで持たない部分があったのかもしれない。ただ、まだ初戦ですし、浦和という素晴らしい相手に対して素晴らしいゲームができて嬉しく思う」

■指揮官が繰り返した「70分」
 開幕2試合を通じて、指揮官はくしくも「70分」という言葉を繰り返している。元日のタイ代表戦で日本代表デビューを果たし、初ゴールも決めているボランチの川村拓夢も、実はFC東京戦後に「70分」に言及していた。
「僕たちのサッカーはどうしても70分以降で、それまでのインテンシティーを継続するのが難しくなる。いまはどうしてもオープンな戦いが多くなっているので、僕たちのボールになったときに相手の陣地でもっと時間を作るとか、サイドからシンプルにクロスを入れるのではなく、そこからもう一度ポケットを取る、といった戦い方をしないときつくなる。そこは次の試合へ向けた課題だと思っている」
 FC東京は先制された直後の70分に、最初の交代カードとしてFWジャジャ・シルバとMF小泉慶を投入。その1分後にディエゴ・オリヴェイラに代わって1トップに回った、荒木遼太郎が2試合連続ゴールを決めて同点に追いついた。
 さらに82分にはFW俵積田晃太とMF東慶悟を同時投入。前への圧力を強め、84分にはドリブルで仕掛けた俵積田がPKを獲得した。キッカーには20歳のキャプテン、MF松木玖生がスタンバイしている。ゴール裏スタンドの一角から守護神、大迫敬介へのエールが響く。広島は絶体絶命のピンチを迎えていた。
(取材/文・藤江直人)

(2)へ続く