大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第128回「誰もが知っているのに誰も守らないルール」(1)110年間変わらない「サッカー10不思議」のひとつの画像
ゴール前のFKはスリリングだが「壁の距離」に関するゴタゴタは嫌悪感しか生まない。1990年W杯イタリア大会、オランダ戦での西ドイツMFローター・マテウスのFK (c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、「サッカー選手は、分かっているの?」

■サッカーでの約束事

 私はときどき、サッカー選手はそろいも揃ってどこか頭脳に欠陥があるのではないかと疑ってしまう。試合中に必ずと言っていいほどの距離、100年以上前から決まった距離の見当がつかず、百パーセント、規定より恐ろしく短い距離をとって平然としているからだ。

 もちろん「9.15メートル」、フリーキック(FK)のときに守備側が離れなければならない距離のことである。何とも中途半端な数字だが、サッカーという競技がイングランド生まれで、「ヤード・ポンド法」の国であるためであることを思い起こさなければならない。欧州連合(EU)の規定でこの国でも一時はメートル法が幅をきかせ始めているように感じたが、EU離脱後はどうなのだろうか。ともかく、サッカーをプレーする人なら誰でも知っているはずの「9.15メートル」は、ヤード・ポンド法では「10ヤード」という切りのいい数字になるのである。

 ちなみに、1959年に国際的に定められたメートル法とヤード・ポンド法の定義によれば、1ヤードは0.9144メートルということになっている。サッカーのルールで10ヤードを9.15メートルということにしたのは、6ミリほど「おまけ」してくれていることになる。守備側にすれば6ミリも遠くさせられたということか…。近年のFKキッカーのキックの精度からすると、6ミリといえども小さからぬ影響があるかもしれない。

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