■「冷静に判断できた」
これを眺めていた大迫はPAエリア内に下がって守備に入るのをやめ、スルスルと前に上がった。先輩FWの動きを察知した佐々木大樹も「サコ君を見て『チャンスかな』と思ったんで中途半端な位置に行きました」と打ち明ける。彼らの中では「FKの逆襲からがら空きのゴールに決勝点を決められるかもしれない」という共通認識があったのだろう。
その思惑通り、中島翔哉が蹴った浮き球のボールを前川黛也がキャッチ。一目散に大迫目がけて蹴り出した。前川自身は「無回転気味になってしまって、いいボールではなかった」と苦笑したが、「黛也からのボールは慣れている」と涼しい顔で言う背番号10は確実にトラップ。狙い済まして右足シュートを蹴り込んだ。
「目の前の試合にしっかりと勝つことを目標に取り組んだからこそ、出た結果だと思うし、本当にチーム全員がハードワークしたご褒美みたいなもんじゃないですかね」と本人は安堵感をにじませたが、まさに2018年ロシアワールドカップ(W杯)ベルギー戦の「ロストフの悲劇」を彷彿させる劇的な幕切れを今季最大の重要局面で演出したのである。
5年前の歴史的敗戦のピッチに立っていた大迫だからこそ、下せた判断だと言っても過言ではないプレー。その経験が生きたのかと筆者が大迫に問うと「相手も1点、絶対ほしい状況だったし、僕らも絶対に欲しい状況だった。(西川が)上がったのを見て、冷静に判断できたのかな」と振り返った。
その後、彼の決勝弾がオフサイドだったのではないかという見方も出ているが、現時点で覆ることはなさそう。今後の行方も注目される。
いずれにしても、2022年1月のカタールW杯アジア最終予選・サウジアラビア戦から1年半以上も代表から離れているとはいえ、代表57試合25得点という実績とドイツで足掛け9年間戦い抜いた国際経験はいざという時にモノを言う。大迫勇也の凄さを改めて痛感させた浦和戦の一撃だった。
(取材・文/元川悦子)
(後編へ続く)