どんな競技であれ、対戦する両者の間には戦力の優劣がつきものだ。だが、時にはその戦力差が、違う意味を持つことがある。日本サッカーを取り巻く「非対称戦」をサッカージャーナリスト・後藤健生がつづる。
■「非対称戦」という言葉
「非対称戦(非対称戦争)」という言葉をお聞きになったことがあるだろうか?
20世紀に人類は2度の世界大戦を経験し、さらに第2次世界大戦終結後もアメリカとソ連が互いに大量の核兵器を突きつけ合って対立する「冷戦」状態が続いたが、1991年にソ連が崩壊して「アメリカ一強」時代が到来した。
しかし、その後も戦争が絶えることはなかった。
19世紀や20世紀のような大国同士、正規軍同士の戦争はなくなったが、戦力に差がある組織同士の戦いが頻発した。「弱者」は「強者」と同じ戦い方をしたのでは勝ち目がないので、相手とは違った戦術を駆使して戦う……。それが「非対称戦」だ。「ゲリラ戦」と言うとイメージしやすいだろう。
アメリカはベトナムでもアフガニスタンでも「非対称戦」を戦って、手ひどいダメージを受けた。ソ連が弱体化したのは、アフガニスタンでの戦争のせいだった。これも「非対称戦」だ。
先週の土曜日(10月7日)にはパレスチナのガザ地区を実効支配しているイスラム組織「ハマス」が、世界最強クラスの軍事力を誇るイスラエルに対して大量のロケット弾やパラグライダーなどを使って奇襲攻撃を仕掛けたが、これなどはまさに典型的な「非対称戦」だ。
ロケット弾やドローン、携帯型対戦車誘導弾など比較的安価な兵器が増えているのも、「非対称戦」が頻発する原因の一つだろう。
ロシアのウクライナ侵略戦争は正規軍同士の戦闘だが、ウクライナは西側の支援を受けながら抵抗戦争を続けており、ロシアとの全面戦争を避けたい西側諸国からの制約によってウクライナ側はロシア領内へはごく限定的な攻撃しかできない。これも、一種の「非対称戦」と言える。