■ビューティフルな風景
さて、アレッツォに行った時、僕はそこが『ライフ・イズ・ビューティフル』の舞台だということをまったく意識していませんでした。しかし、街の中心地であるピアッツァ・グランデ(大広場)はどこかで見覚えのある光景でした。トスカーナ地方の街は丘陵地帯の傾斜地に造られているので、広場も平坦ではありません。その斜面になった広場で、映画の冒頭、家族が幸せそうに自転車に乗っていた場面を思い出しました。
さて、アレッツォでのもう一つの思い出は、駅のそばのオステリアで昼食を摂った時のことです。「オステリア」は「リストランテ」よりも大衆的な店です。
向かいのテーブルで、中年のおじさん2人がスパゲッティを食べていたのですが、その食事風景がなんともエレガントなのです。
フォークを垂直に持って、パスタをくるくると巻いていきます。急がず、ゆっくりと……。そして、パスタが絡まったフォークを、まるで卓球でペンホルダー式グリップからシェークハンド式に変えるようにフォークを持ち替えて、フォークを水平にして口に運ぶのです。その一連の動きが、ただの中年おやじたちだというのに、えらく優雅なのです。
で、僕のテーブルにもスパゲッティがやって来たので、早速、真似してみました。それ以来、パスタを食すときには、僕もペンホルダー式とシェークハンド式を使い分けながら食べるようにしています。