W杯に「出場」した日本企業

 チームベンチを構成するもうひとつの要素が、椅子の部分を覆う「シェル」である。アルミニウムなど軽い素材で「フレーム」をつくり、そこに透明のアクリルボードをはめ込んで屋根などとする。透明にするのは、もちろん、観客の視線を遮らないためだ。ただし直射日光に当たると、チームベンチは温室のようになり、堪え難い暑さとなる。

 最近では、「シェル」の屋根や背部に広告を入れているクラブも少なくない。「観客の視線を確保する」という目的には合わないが、直射日光よけにはなるかもしれない。

 ところで、2014年のワールドカップ・ブラジル大会で使われたチームベンチの「シェル」には、アクリルボードではなく、日本製の強化ガラスが使われていたという話はあまり知られていないのではないか。世界最大のガラスメーカーである旭硝子(現在の名称はAGC)がFIFAと契約を結び、チームベンチの製作を請け負った。FIFAからの要求は、「高さ1.9メートル、幅11.5メートル、奥行き1メートル、座席は23」というものだったという。

 2012年10月に契約、2013年に行われる「FIFAコンフェデレーションズカップ」に間に合わせなければならなかったため超特急の仕事だったが、旭硝子はデザインからチームベンチを設計し、非常にスマートなベンチを2013年6月には「コンフェデ」で使う6会場に、そして2014年のワールドカップ時には全12会場に用意した。「シェル」にはスマートフォンのカバーガラスを使った。通常のガラスと比較して非常に強度があり、傷つきにくく、また透明感があるという。

 つい先日、マンチェスター・ユナイテッドで「ベンチスタート」となったクリスティアーノ・ロナウドが不満そうな表情をしているところをテレビ中継で映されて話題になった。大スターは大変である。ピッチ上にさまざまな「人生」が詰まっているように、チームベンチにもさまざまな物語がある。

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