■ゴールを「副業」に利用した名選手
2017年10月に行われたワールドカップのアジア予選プレーオフ、オーストラリア対シリアは、非常な接戦となった。初戦はシリア国内でのゲームが行えないため、マレーシアのクルボンで行われて1-1の引き分け。シドニーでの第2戦も、90分間を終わって1-1だった。そして延長にはいって後半4分、オーストラリアのエース、ティム・ケイヒルが左からのクロスに合わせて見事なヘディングシュートを決める。大陸間プレーオフ進出に大きく前進する貴重な得点だった。
ケイヒルと言えば、得点後にはコーナーに走り、コーナーフラッグに向かってシャドーボクシングをするのが「十八番」のゴールパフォーマンスである。だがこのときにはコーナーフラッグに走り寄ったものの、前半13分の同点ゴールのときと同様、両手を真横に広げて走った。それは、よくある「飛行機パフォーマンス」に見えた。チームメートの祝福の輪から出ると、ケイヒルは両手で「T」の文字をつくって見せた。それが少し不思議だった。
思いがけない「スキャンダル」が発覚したのは、オーストラリアが2-1のまま勝ちきった試合直後のことだった。ある旅行会社が、自社のSNSに「私たちのブランドアンバサダーであるケイヒルが、私たちの『T』を演じたのを見てくれましたか」と、得意げに書き込んだのだ。この試合の少し前に、ケイヒルはこの旅行会社と契約を結んでいた。
両手でつくった「T」だけでなく、その前の「飛行機パフォーマンス」で両手を広げたポーズも、「T」をかたどったものだった。ワールドカップ予選のアジアプレーオフ。この重大な舞台で、オーストラリア・サッカーの「レジェンド」とも言うべき37歳のベテラン選手、しかもこの試合でキャプテンを務めていたケイヒルが、重要なゴールを彼の「副業」に利用したのだ。その愚かさに、国中から批判の声が起こった。