大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第67回「過剰なゴールパフォーマンスの愚」(4)最も美しかったゴールパフォーマンスの画像
ゴールパフォーマンスの「始祖」エウゼビオ(1966年W杯イングランド大会のハンガリー戦のゴール後) 写真:AP/アフロ
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ゴールの喜びは、ピッチに立つチームメートやベンチの仲間、スタジアムやテレビの前のサポーターとともに分かち合うもの。派手なゴールパフォーマンスはスタジアムの華だ。新しいパフォーマンスを思いつき、その練習を重ねても披露するチャンスがないアタッカー。大舞台でゴールを決め、どう喜んでいいのかわからないディフェンダー。どちらも「サッカーあるある」だが、ゴールした選手が喜びを爆発させる様は見ている側も幸せな気持ちになるーー。

■ゴールを「副業」に利用した名選手

 2017年10月に行われたワールドカップのアジア予選プレーオフ、オーストラリア対シリアは、非常な接戦となった。初戦はシリア国内でのゲームが行えないため、マレーシアのクルボンで行われて1-1の引き分け。シドニーでの第2戦も、90分間を終わって1-1だった。そして延長にはいって後半4分、オーストラリアのエース、ティム・ケイヒルが左からのクロスに合わせて見事なヘディングシュートを決める。大陸間プレーオフ進出に大きく前進する貴重な得点だった。

 ケイヒルと言えば、得点後にはコーナーに走り、コーナーフラッグに向かってシャドーボクシングをするのが「十八番」のゴールパフォーマンスである。だがこのときにはコーナーフラッグに走り寄ったものの、前半13分の同点ゴールのときと同様、両手を真横に広げて走った。それは、よくある「飛行機パフォーマンス」に見えた。チームメートの祝福の輪から出ると、ケイヒルは両手で「T」の文字をつくって見せた。それが少し不思議だった。

 思いがけない「スキャンダル」が発覚したのは、オーストラリアが2-1のまま勝ちきった試合直後のことだった。ある旅行会社が、自社のSNSに「私たちのブランドアンバサダーであるケイヒルが、私たちの『T』を演じたのを見てくれましたか」と、得意げに書き込んだのだ。この試合の少し前に、ケイヒルはこの旅行会社と契約を結んでいた。

 両手でつくった「T」だけでなく、その前の「飛行機パフォーマンス」で両手を広げたポーズも、「T」をかたどったものだった。ワールドカップ予選のアジアプレーオフ。この重大な舞台で、オーストラリア・サッカーの「レジェンド」とも言うべき37歳のベテラン選手、しかもこの試合でキャプテンを務めていたケイヒルが、重要なゴールを彼の「副業」に利用したのだ。その愚かさに、国中から批判の声が起こった。

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