■絶体絶命のピンチに救世主現る

 2人とも汗だくになって格闘すること2時間。そろそろ絶望的になりかけたころ、爽やかな笑顔とともにメディアセンターに現れたのが、当時34歳、朝日新聞の潮智史記者だった。「石器時代人」2人は、彼に「どうしたらいいの」とすがるような顔をして聞いた。幸い、彼は私たちと違い、立派な「最先端の現代人」だった。

「これはね、こうやって、こうやって、こうやって、こう」

 わずか30秒。彼がパソコンのキーを押すと、それまでうんともすんとも言わなかった携帯電話が反応し、発信を始めた。やがてパソコンのスピーカーから「ガー・ピー、ヒョロヒョロ」というなぜか心安らぐ雑音が鳴り、アクセスポイントにつながったことがわかった。私と財徳記者の目には、潮記者が救世主のように見えた。そして私は、フランスにきて何か大きな仕事がひと段落したように感じた。ところが実際には、まだ原稿など1行も書いていないのである。

 こうして私は、原稿送りだけをとっても、手渡しや郵送の時代から、ファクス送稿、パソコン通信、そしてインターネットメールと、激しい変化の時代を乗り越えてきた。「石器時代」から一挙にテクノロジーの現代へ、「激動する世界」を、潮記者に限らず、さまざまな人に助けられながら、なんとか乗り越えてくることができた。そしてきょうも、そうした最新のテクノジーを駆使し、こんな愚にもつかない記事で読者の目を汚しているのである。

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