一方で、ジダンには天邪鬼(あまのじゃく)なところがある。彼の幼少期のアイドルはエンソ・フランチェスコリだった。ただ、世代的にはディエゴ・マラドーナに憧れていてもおかしくない。以前、それについて聞かれたジダンはこう答えている。
「1986年のワールドカップの時、私は14歳だった。いろいろと分かってくる年齢だ。ワールドカップで、マラドーナのようなプレーをした選手はいない。しかし、どうしてだろう……。私は周囲の人たちがベストだと考えている選手とは違う選手が好きだった。それは不当な何かに立ち向かうようなものだった。そして、英雄的でない主人公に賭けるのは、どこかロマンチックだった」
また、スター選手のマネジメントに長けるジダンだが、全選手に満足感を与えることはできなかった。ダニ・セバージョス、セルヒオ・レギロン、ハメス・ロドリゲス、ガレス・ベイルといった選手たちがマドリーを去っていった。
「ジダンには忍耐が必要だと言われていたけど、最後までチャンスがもらえなかった」とセバージョスが述べれば、「退団の際にジダンとの会話はなかった」とレギロンが語る。「僕にとってはフラストレーションだった」とはハメスの弁だ。
なかでも困難だったのはベイルの扱いだ。2019年夏、ジダンとベイルの緊張関係はピークに達していた。プレシーズンでバイエルン・ミュンヘンに敗れた後、ジダンが「24時間から48時間以内にベイルの移籍が決まる」と公式会見で発言。その試合への出場を拒否したベイルに怒りを隠せなかった。
移籍を念頭に入れ、チームの一員としての役割を果たさなかったベイルに対する不満だった。それが一気に爆発しての発言だった。2006年のワールドカップ決勝でマルコ・マテラッツィに頭突きを喰らわせたように、ジダンは意外に激情型なのだ。
天邪鬼で、激情型。それもまた、「ジズー」の一面だろう。
だがレアル・マドリーというクラブに灰色はないのだ。求められるのは勝利のみーー。ジダン自身がその不文律を深く理解しており、そこに天邪鬼で激情型という資質が不思議にマッチしているようにみえる。