■Jリーグの抱え込んだジレンマ
今季のJリーグでは、激しいチャージやタックルだけでなく、手を使って相手を押さえるプレーが、攻守両面で増加した。予想どおり、試合が進むにつれ、選手たちは軽くつかんで相手のスピードやバランスに影響を与え、それでいて明らかな反則にはならない微妙な技術に習熟した。だが、それに慣れきったとき、川崎の谷口とFC東京の中村帆高が大きな「ペナルティー(懲罰)」を受けることになる。
私の率直な感想は、大分の野村の倒れ込みは少し大げさにも見えたが、谷口の「ホールディング」が彼に影響を与えたのは明らかで、PK・退場の判定は当然だった。しかし于漢超の倒れ方はあまりにもあざとく、中村帆高の接触によるものではなく、まるで「日本のDFは手を出すから、見のがさずに倒れろ」と指示されていたかのようだったし、中村の力が強く于漢超に影響を与えたようには見えなかった。Jリーグなら取られない確率が高いだろうと思われた。ちなみにACLでも、この段階ではまだVARはない。
しかしすべては主審の判断である。「州の投票の過半数をとったら、その州のすべての選挙人の投票を得る」というアメリカの大統領選挙のように、しかも大統領選挙のように結果を確定するまでに何週間の時間を許されるのとは違い、真っ白から真っ黒まで「グラデーション」のように段階なく色が変わっていくコンタクトプレーを、「白か黒か」のどちらかに、瞬時に決めなければならない。その判断は尊重されなければならない。
ここに大きなジレンマがある。Jリーグのサッカーはタフにならなければならない。タフさを生む背景には、反則すれすれの激しいチャージやタックル、そしてときに腕や体をホールディングする相手選手が必要で、それをいちいち罰していたら、タフなプレーは生まれない。しかしその判定基準に選手たちが甘えて、あるいは利用して、無考えに手を使うようになれば、谷口や中村帆高のような、痛い「しっぺ返し」をくらうだけでなく、より重大な結果として、一対一の能力の低下を招くことになる。