後藤健生の「蹴球放浪記」連載第32回「晩秋の欧州サッカー“6泊7試合”の記憶」の巻の画像
スイス対北アイルランドのチケット 提供:後藤健生
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時代は変わった。ベルギーのブリュッセルくんだりで女性警官と日本語でやり取りできるんだから……。晩秋のヨーロッパに6泊して7試合観戦! 後藤さんは絶好調。でも、そんなときほど油断は大敵。

イタリア代表の歴史的瞬間に立ち会った

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が日本代表で最後に指揮を執ったのは2017年11月の欧州遠征でのことでした。1試合目のブラジル戦は36分までに3ゴールを奪われ、その後はブラジルも手を抜いてくれたので槙野智章が1点を返して1対3のスコアで終わりましたが、内容的にはまったくの完敗でした。

 この試合が行われたのはフランスの北部のリールだったのですが、リールから最も近い大都市はベルギーの首都ブリュッセルだったので、僕はブリュッセルに泊まってTGVでリールまで往復しました。試合後、大急ぎでブリュッセルに戻ればベルギー対メキシコの親善試合を観戦することもできたからです。

 ベルギーではU-21のベルギー対キプロス戦や2部リーグも観戦。その後は再びTGVに乗って移動し、バーゼルでスイス対北アイルランド、ミラノでイタリア対スウェーデンを観戦。どちらもワールドカップ欧州予選のプレーオフ・セカンドレグという痺れる試合です。

 その後、ベルギーに戻って日本とベルギーの試合を見て帰国したので、ヨーロッパでは6泊して合計7試合も観戦できたのですが、日本代表の試合はショボすぎて今ではもうほとんど記憶にもありません。ベルギー戦は頑張って守ったものの、0対1でこれまた完敗。この両国が約半年後にロストフであのような大激戦を繰り広げることになろうとは、当時はまったく想像もできないことでした。

 バーゼルまでの途中、乗り換えのために立ち寄ったストラスブールでは晩秋の美しい街並みの中の散歩を楽しみ、またバーゼル旧市街の古びたホテルの前の広場ではクリスマス・マーケットが開かれており、小雪が舞い落ちる中でホットワインを飲みながら眺めたいかにも冬のヨーロッパらしい光景はとても印象的でした。

 一方、明るい陽光が降り注ぐミラノでは久しぶりのイタリア滞在を満喫しました。そして、イタリア代表がスウェーデンとスコアレスで引き分け、60年ぶりにワールドカップ出場を逃すという歴史的な瞬間に立ち会うこともできました。

 印象的だったのは、試合が終わってからイタリアの観客が騒ぐでもなく、落胆するでもなく、「ああ、やっぱりダメだったね」といった達観した表情だったことでした。ゴール前にロングボールを放り込むだけで、ことごとく長身DFに跳ね返されてしまうという試合展開を見れば、たしかにイタリアの予選敗退は当然の結果のように思えました。

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