■カインがアベルを殺した現場があった

 翌朝、ティシュリーン・ホテルの玄関を出ると、街並みの向こうに小高い丘が見えました。木がまったく生えていない岩山です。

 ドアマンがその山を指差してこう言いました。

「知ってますやろか? あれがカシオン山。カインがアベルを殺した場所でっせ」

「旧約聖書」の「創世記」に出てくる話です。アダムとイブの息子カインが弟のアベルを殺した「世界で最初の殺人」とされる事件です。「聖書」にはそれがどこで起こったことか書いてありませんが、ダマスカスでは、それはこのカシオン山での出来事だと言われているのです。見たところ何の変哲もない岩山なんですが……。

 ダマスカスでいちばんの見どころはウマイヤ・モスクです。

 ダマスカスは紀元前3000年頃から存在する古い都市で、モスクがある場所はもともと古代の神殿があった場所で、後に聖ヨハネ教会となっていましたが、イスラムの征服後の715年にモスクに改造されたのです。そういえば、どこかキリスト教の大聖堂とも雰囲気が似ています。そして、最後の審判の時にはイエス・キリストが復活して、このモスクに降臨すると言われています。

 街の中には「真っ直ぐな道」という通りがありました(固有名詞です!)。

 イエスが亡くなったすぐ後のことですが、キリスト教徒を迫害していたサウロという男が視力を失ってしまいます。しかし、サウロは「真っ直ぐな道」でイエスの弟子の聖アナニアと出会って視力を回復。そこでサウロはキリスト教に改宗し、以後「使徒パウロ」としてキリスト教の伝道を行いました。……これは「新約聖書」のお話です。

 ダマスカスは、まさに“聖書の世界”でした。紀元前3000年頃に建設された都市は他にもいくつもあるでしょうが、その古代都市が今でも一国の首都となっているというのは驚くべきことです。

 ちなみに、アッバシーン・スタジアムで行われたシリア対イランの試合は、後半カリム・バゲリからの縦パスを受けたアリ・ダエイが抜け出して決め、1対0でアウェーのイランが競り勝ちました。

 この試合の主審は日本の岡田正義さんでしたが、多少の接触では笛を吹かずに流す「積極的で勇気ある笛」で試合を盛り上げました。最初は主審の顔を見て笛を要求していた両チームの選手たちもすぐに岡田さんの意図を理解して、激しくもフェアな戦いを繰り広げました。すばらしいジャッジだったと思います。

 しかし、審判団用のバスに同乗してスタジアムを出たら、興奮したシリア人の群衆に取り囲まれて石を投げられてしまいました。審判というのは本当に大変な仕事です。

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