■トバゴ島はこの世の楽園

 トリニダード・トバゴという国はトリニダード島とトバゴ島の2つ島で構成されています。首都のポート・オブ・スペインなど大都市の多くはトリニダード島にあり、こちらは100万人以上の人口がありますが、小さなトバゴ島の方は人口もわずか6万人。自然が美しい島です。

 独立する前は英国領でしたが、昔はいろんな国が支配していたようで、ラトビア(正確に言えばドイツ系のクールラント公国)の植民地だったことすらあります。

 僕は島の西の端にある最大の街スカボローの海沿いにあるクラウンポイント・ホテルに泊まりました。ホテル案内に「空港から徒歩圏内」とあって便利そうだったからです。空港のターミナルから外に出ると牧場があって牛が草を食んでいました。その牛さんたちの脇を通って海の方向に向かって歩いて行くと、すぐホテルに着きました。

 部屋のベランダに出てみると目の前は真っ青なカリブ海が広がっていて、シュノーケルなんかで遊ぶことができます。

 メディア用のバスに揺られて島の東部にあるスタジアムまで向かうドライブも本当に風光明媚でした。試合前の国歌はこの国の国民的な楽器スチールドラムで演奏されました。昔、黒人奴隷たちがドラム缶の蓋を凹ませて作った楽器だそうですが、「スチールドラムの君が代」というのもなかなか良い味を出していました。

 トリニダード島とトバゴ島の間は飛行機で往復します。たいていは小型機だったんですが、時にはボーイングの大型機のこともあります。飛行時間はわずか20分ほど。離陸したと思ったらすぐに着陸態勢に入ります。

 トバゴ島はとにかくのどかだったんですが、この間、世界は大変なことになっていました。北米を中心に世界中で飛行機が飛べなくなってしまいました。約1週間後、ようやく北米でも民間機の運航が始まるという日にCNNを見ていたら、ニューヨークの空港から中継でアナウンサーがこんなことを言っていました。

「再開後最初の飛行機です。尾翼に“ANA”と書いてありますが、どこの飛行機でしょうか……。すいません、ちょっと分かりません」。青と白の、日本人にとってはお馴染みの機体だったんですが……。

 日本から直接トリニダード・トバゴに来る人はほとんど北米経由になりますから、U-17世界選手権を取材に来るはずだった人たちも大変な目に遭ったようです。

 まだ出発していなかった人たちは飛行機が飛ばなかったので取材を諦めたようです。僕はラップトップPCの部品が壊れてしまったので某サッカー専門誌の編集者に持ってきてもらう約束をしていたんですが、とうとう部品は到着しませんでした。すでに日本を出発して北米に入っていた人は、何日も体育館のようなところに泊められたそうです。

 今でも、毎年9月11日に同時多発テロのニュースを見るたびに僕はあの美しいカリブ海で遊んだ楽しい記憶を思い起こします。はなはだ不謹慎なことなのですが……。

 

憶を

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