2001年、後藤さんはイタリアからドイツ、ハンガリー、再びイタリアとサッカー旅を続け、ロンドンを経由してカリブ海の楽園、トリニダード・トバゴへと降り立った。日付は世界中がいまでも忘れない9月11日、アメリカ同時多発テロ事件の当日だった。
■田嶋幸三監督からの誘惑
今から19年前の2001年9月11日。僕はロンドンのヒースロー空港からカリブ海の島国トリニダード・トバゴに向かっていました。西インド航空(BWIA)のBW901便は定刻より30分ほど早く、17時前に同国の首都のポート・オブ・スペインに到着。そして、入国審査の順番が回ってきました。
東京の英国大使館でビザも取得してきたので何の問題もなく僕のパスポートに入国のスタンプが捺されました。すると、突然、入国審査官がこう言ったのです。
「君、知っちょるかね? アメリカのペンタゴンに飛行機が墜落したみたいだぞ」
「ペンタゴン」というのはアメリカ合衆国の国防総省のことです。大きな5角形のビルなので「ペンタゴン(5角形)」と呼ばれています。
何だって? 飛行機が落ちたって何のことだ?
ポート・オブ・スペインのホテル・ノルマンディーにチェックインした僕は、早速テレビの電源を入れてみました。CNNの画面には真っ黒な煙を噴き出すニューヨークのワールドトレードセンターのツインタワーが映し出されていました。アルカイダのテロリストにハイジャックされた民間旅客機がビルに突っ込んだようです。ペンタゴンにも旅客機が墜落していました……。
ワールドトレードセンタービルは崩壊して約3000人が犠牲となり、アメリカのジョージ・ブッシュ大統領(息子)は、この後「対テロ戦争」と称してアフガニスタンやイラクに対して軍事行動を繰り広げていくことになります。
トリニダード・トバゴにやって来たのはU-17世界選手権(現U-17ワールドカップ)の観戦のためでした。
僕は、8月末にスカパー!のイタリア・セリエA中継の現地解説の仕事があってイタリアに渡り、その後、ミュンヘンでドイツ対イングランド、ブダペストでハンガリー対ルーマニアの試合(ワールドカップ予選)を観戦。再びミラノでセリエAを観てからロンドン経由でトリニダード・トバゴに向かったのです。
それまで、海外で開催されたU-17ワールドカップを観戦に行ったことはなかったのですが、U-17日本代表の田嶋幸三監督(現JFA会長)に「日本の試合会場のトバゴ島というのはとても美しいところですから、ぜひ来てくださいよ」と言われたので行ってみることにしたのでした。こんなことでもなければ滅多に行ける国でもありませんしね。
田嶋監督は「良いチームですから」と言わず、「美しいところですから」と言って僕を誘ったのですが、たしかにその言葉に嘘はありませんでした。