■芋虫入り酒のつまみは芋虫の揚げ物で

 メスカルというのはリュウゼツラン(竜舌蘭)を原料とする蒸留酒。そして、グサーノはそのリュウゼツランに棲む蛾の幼虫、つまり芋虫です。つまみとしてグサーノのフライをいただきます。そして、酒瓶の中にもちゃんとグサーノが入っています。

 うう~ん。不思議な味です、モーレ・ポブラーノ!

 メキシコ料理というのは、世界の他のどの国の料理とも違います。カカオがベースですから、まずカカオのほのかな甘味が口の中に広がります。そして、その後だんだんと唐辛子の辛みが襲ってくるというわけです。「ポブラーノ」種の唐辛子はマイルドなんですが、やはりしっかりと辛いです。

 ちなみに、カカオも唐辛子もメキシコなど中南米が原産地です。だから、唐辛子といっても夥しい数の品種があります。そのほか、トウモロコシも、サツマイモやジャガイモも、トマトもすべて中南米原産です。つまり、15世紀末にコロンブス(クリストフォロ・コロンボ)が新大陸に到達するまでは、ヨーロッパにもアジアにもこういう食材は存在しなかったわけです。

 ドイツ人もアイルランド人もジャガイモを食べていなかったし、イタリア人はトマトを見たこともありませんでした。そして、朝鮮のキムチにも、四川料理にも唐辛子は入っていませんでした(朝鮮半島に唐辛子を持ち込んだのは豊臣秀吉の軍勢だったという話もあります)。

 そして、もう一つコロンブスがカリブ海で見つけたもののうち、僕たちにとって大事なものがゴムでした。ヨーロッパでは最初は観葉植物だったそうですが、そのうち消しゴムとして使用され、19世紀になって自転車の(その後は自動車の)タイヤ・チューブとして利用するようになりました。そして、そのゴム・チューブ製造の技術を利用してゴム袋の中に空気を入れたフットボールが発明されました。

 それまで、ボールは豚や牛の膀胱を膨らませたものを使っていたんですが、膀胱製のボールはあまり弾まないし、すぐに破裂してしまう代物でした。もし中米原産のゴムがなかったら、フットボールが人気スポーツになることはなかったかもしれません。

 というわけで、食事を堪能した僕たちはバスでメキシコ市に向かったんですが、途中のお土産屋で「カモーテ」という菓子を買いました。地元民も皆、これを買っています。有名なプエブラ土産なのです。「カモーテ」とはサツマイモのこと。甘いサツマイモを砂糖で煮てさらに甘~くしたものが「カモーテ」です。外は、砂糖の結晶がザラザラと付いています。

 辛い料理がある国にはたいてい甘い菓子が存在するものですが、「カモーテ」は僕がこれまでの人生で口にした中で最も甘い食物でした。

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