■あの“ペレ”を思い起こす華麗なファーストタッチ
最近、久保のプレーを見ていて特に感心するのが、彼のファーストタッチの巧みさである。この点こそが、この1年間スペインでプレーしてきた中で最も大きく進歩したところではないか。おそらく、強力なDFと対峙するために久保自身も意識的に工夫しているところなのだろう。
ボールをどのように受けて、いかにスムースに次のプレーに結びつけていくか……。それができれば、マークする相手に対して先手が取れるわけだ。
サイドの選手は半身でボールを受けて、そのままドリブルで仕掛けるプレーが要求されるから、ファーストタッチがうまい選手が多い。たとえば内田篤人や酒井高徳がそうだ。現在シントトロイデン(ベルギー)でプレーしている伊藤達哉もファーストタッチがスムースな選手だ。
パスを受け、そのパスの勢いを殺さないようにコントロールすることによって1歩目からスピードに乗ったドリブルに移れるというわけだ。
最近の久保は、そのファーストタッチが実に多彩で、相手のポジションや受けるボールの質などを考えて、常に最適のファーストタッチを選択しているように見える。
たとえば、大きなサイドチェンジのパスを受ける時にはピタリと足元に止めて相手の出方を見るとか、後方からスピードのあるパスが来た時には足元でコントロールしてタメを作るか、逆にそのパスのスピードを殺さないでスピードドリブルに移って一気にボールを運ぶか……。さらに、パスの質が悪く、勢いが緩すぎる場合にはファーストタッチでボールを前につついて加速させることによって1歩目からスピードに乗ったドリブルに入れるようにする。そして、さらにファーストタッチでボールにバックスピンをかけてみたり、足裏を使ってみたりと、実にさまざまなタッチでボールをコントロールして見せるのだ。
ファーストタッチで、最も適切な場所にボールを置くことができれば、ボールをコントロールした瞬間にはすでにマークする相手に対して優位な状況を作った上で次のプレーに移れる。たとえば、相手が慌てて追ってくれば、そこでストップすることだけでパスコースを作れるかもしれない。ドリブルに移った後は守備側の選手の態勢や、重心の移動の逆を取ってボールを動かしていく。守備の穴ができるのを待つのではなく、積極的に相手の守備陣に穴を作っていくのだ。
さらに、ファーストタッチで相手に対して優位なポジションを取ることによって、心理的にも優位に立ってプレーできることになるし、次のプレー機会では相手は久保のファーストタッチを過剰に意識することになる。
アトレティコ・マドリードとの試合でも、久保は様々なファーストタッチでアトレティコの守備陣を翻弄した。たとえば、13分にグラウンダーの強い縦パスを受けた場面では足裏を使ったストップで、ボールを柔らかくコントロールして見せた。
そして、圧巻は42分に右サイドをドリブルで突破し、コケやホセ・ヒメネスをかわしてCKを奪った場面。画面にはボールを地面にたたきつけて悔しがるヒメネスの姿が大きく映し出された。
この場面、自陣でボールを運んだ久保が、クチョ・エルナンデスに預け、クチョがタッチライン沿いに縦に出したボールを久保が受けたのだが、クチョからのボールが緩すぎ、ほとんど止まったような状態だったのだ。すると、久保はそのボールをつま先でちょんと浮かせて前に置き、素早く1歩目を踏み出してスピードに乗ってアトレティコの選手を置き去りにしたのだ。そこでスピードに乗ってドリブルに移った後であれば、たとえ相手がコケであっても、久保が絶対の優位に立って勝負できるのだ。
さらに、直後の45分にもちょっと驚きのプレーを見せる。バイタルエリア辺りにいた久保の前に、相手の高く上がったクリアボールが落下してきたのだ。ハイボールというのは、サイズで劣っている久保にとっては弱点の一つだ。「さて、どうするか」と思って見ていると、久保は落ちてきたボールを足で跳ね上げて、相手の頭を越してスペースに落として抜けようとしたのだ。
もっとも、ボールは久保の意図通りには跳ね上がらず、相手の頭に当たったのだが、結果としてうまくスペースに落ちてきたので、久保はそれをもう一度コントロールしてから、ボックス内の味方に完璧に合わせてみせた。
ボールを高く浮かせて相手の頭上を越そうとした久保のコントロールを見ていたら、1958年のワールドカップ決勝でペレが決めた有名なゴールを思い起こさせた。ボールを高く蹴り上げながら、相手のDFの裏に抜けて行って落ち際をシュートしたあの場面だ。